宮藤さんの脚本で「生きてる!」って実感 橋本愛
大河ドラマ『いだてん』は脚本の宮藤官九郎をはじめ、連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年)のスタッフチームが制作する作品。『あまちゃん』でヒロインの親友役を演じた橋本愛は、『いだてん』で当時のチームと再会した。この作品と現場をどう感じているか、話を聞いた。
『いだてん』は、ドラマの主人公となる金栗四三と田畑政治の人生が、古今亭志ん生(ビートたけし)の目線で語られていく。その志ん生側の浅草を舞台にしたストーリーも、並行して展開される。若かりし頃の志ん生・美濃部孝蔵(森山未來)と共に、浅草でたくましく生きているのが、人力車夫の清さん(峯田和伸)と遊女の小梅(橋本愛)。清さんは金栗と孝蔵を結びつけるキーパーソンとなり、小梅も熊本から上京したばかりの金栗に声をかけるなど、要所でオリンピックに関わる人物に絡んでいく。
「現場は本当に活気がありますね。こだわりが強いチームなので、スタッフさんの心が創作に真っすぐに向いている空気がありますし、みなさんのパワーをビシビシ感じています。『あまちゃん』からもう5年くらいたっていますが、またこのチームに入れるのはうれしかったですし、私自身もニューバージョンの状態で(笑)、宮藤さんの脚本を読んだときはワクワクしました。
演出の井上剛さんは、いつも頭の中にシーンが出来上がっていて、隙がないですね。宮藤さんのことをとてもよく分かっていて、脚本のむちゃ振りに戸惑っていないというか。私も含め、ほかの人たちはいい意味で宮藤さんに翻弄されて、『これで合ってるかな』と現場で相談し合いながら作っていくことが多いですが、井上さんはどしっとしてます。迷いがない感じは、『あまちゃん』のときもそうでした。宮藤さんの脚本には脇役がいないというのを井上さんもくんでいて、1人ひとりをちゃんと粒立てる。だから、こちらも相当の表現を求められているというのは感じます」
個性が際立ったキャラクターの群像劇は、『いだてん』の大きな魅力の1つとなる。
「宮藤さんは普通の人を、普通じゃない面白さを持つ人のように書く力がすごい。主人公のお2人は功績のある人たちですが、歴史上の(重々しい)偉人ではないし、失敗も多くて、『本当にすごい人なの?』って思うくらい、滑稽なんですよね。そこが愛しいです。
私が演じている小梅が出てくる『浅草パート』は、遊びが効いたシーンで。峯田さん演じる清さんや、森山さん演じる孝ちゃんと、好き勝手にやっている。言ってしまえば、本筋には深く関わらない役回りなんですけど、『生きてる!』って実感しながら演じられていて、とても楽しいです。人の気持ちよりちゃんと自分を優先する3人が、ケンカしたり罵り合いながらも、なぜか切れない友情でつながっているのも尊いなって。しかもお2人とも俳優として特別。峯田さんのお芝居は歌みたいだし、森山さんは動物的。それを間近で見られるのも貴重な経験になっています。
小梅は物語が進むにつれて変化を見せますが、今撮影している物語前半の終盤は、第4形態ぐらいのイメージ。女性の強さを主張するわけではないですが、脚本に表現されているので、私がちゃんと受け取って、届けられたらいいなと思っています」
■楽しく生きよう、が笑いにつながっている
要所にユーモアを効かせ、笑える作風であることが宮藤作品の特徴であり魅力だが、橋本は"社会派"と表現する。
「いろんな種類の問題やニュースがあるなかで、宮藤さんが今の世の中や社会に対して感じていることがユーモラスに、でもちゃんと提示されていると思います。先日、宮藤さんの舞台を見に行ったんですよ。『意味が分からない』ではなく、本当に『意味がない』笑いがふんだんで、たぶん凝縮したとしたら30分で終わるくらいの(笑)。ただそうやって笑ったりしているうちに、社会の断片が見えてくる構図に、いつもドキッとさせられるんです。
今回、コメディって"闇"みたいなものがないと、思い切り飛ばしてできないんだということにも気付きました。楽しく生きよう、というのが笑いにつながっているのだなと。一身に不幸を受け止めて、それを踏まえた上で笑いにしよう、みたいな心の機微を知れたのは大きかったです。脚本に直接書かれているわけではありませんが、小梅が背負っているものもあると感じています」
新しさが目を引く作品になりそうだが、伝統枠ならではの"大河ドラマらしさ"は引き継いでいる。
「セットがとても素晴らしくて、映らないところも全部作り込まれているのは、演じる側からするとすごく助かります。浅草のシーンでは十二階建ての凌雲閣が出てくるんです。上の高い部分はCGになりますが、入口の門のところの複雑な装飾が見事に再現されていて、『ここ、省かないんだ』って、感動しました。
私は『西郷どん』(18年)の出演が決まってから、『篤姫』(08年)や『おんな城主 直虎』(17年)を見たくらいで、大河ドラマには詳しくないけれど、史実を重んじるという意味では『いだてん』もポイントは外していないと思います。でも『こんなこと実際はやってないでしょ?』って思ってしまう部分もたくさんありますが(笑)。大河ドラマという枠とシステムを駆使して、新しいエンタテインメントを作っている感じです。私は、みなさんにすごく面白がってもらえるのではと期待しています」
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2019年2月号の記事を再構成]
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