バリアフリー、便利でなきゃ ジャパンタクシーの教訓

トヨタは車いすの乗車に時間がかかっていた「ジャパンタクシー」を改良する(1月31日、名古屋市)
トヨタは車いすの乗車に時間がかかっていた「ジャパンタクシー」を改良する(1月31日、名古屋市)

トヨタ自動車は2017年に発売した「ジャパンタクシー」を改良する。「さまざまな人に優しく、どこへでも快適」というキャッチフレーズのもと、車いすのまま乗降できると告知していたが、スロープの設置作業などが複雑なため乗車を拒否するドライバーもいた。改良によって作業の工程数を4~6割減らす。2020年東京五輪・パラリンピックに向けて至る所に広がるバリアフリーだが、使う人の視点に立っているのか問い直す必要もありそうだ。

改良の最大のポイントは車いすの乗降だ。トヨタは一連の作業を約10分間とみていたが、実際の乗車現場では15分間以上かかるケースもあった。改良で既に販売した車両の作業時間は約4分間、3月から売る改良車は約3分間に短くする。

後部座席に車いすの乗降作業のラベルを貼り、運転手が分かりやすいようにする

ジャパンタクシーは誰もが乗車しやすいユニバーサルデザイン(UD)を採り入れており、スライドドアと広い後部座席で車いすのまま乗れることが特長だ。だが後部座席を上げ、収納袋にあるスロープを組み立て、車いすと車両を固定する作業がいる。「作業が複雑で、マニュアルをみる時間もかかっていた。考えが甘かった」(小型車カンパニーの粥川宏チーフエンジニア)という。

車いすが乗れるようにするには63の作業工程が必要だったが、販売済みの車は改良部品によって4割減らし、3月に発売する改良車両は6割減る。スロープの組み立てを簡単にしたり、車いすを固定するベルトを常設したりする。またロック解除のレバーの位置、車いすを固定する手順を記したラベルを車内に貼る。

トヨタは17年10月、22年ぶりの新型タクシーとして、ジャパンタクシーを発売した。燃費性能を従来の2倍に高め、車いすの利用者、訪日外国人らが乗りやすい機能にした。18年末までに全国で約1万600台を販売し、法人タクシー車両の6%近くを占めている。トヨタは2月から販売済みのタクシーには改良部品を配り、3月から改良版の車両も発売する。

ジャパンタクシーを巡っては18年11月、車いすを利用する名古屋市の男性らが「乗る際に時間がかかり、乗車拒否されることがある」として、トヨタに改善を求める約1万2千人分の署名を出した。東京都内で車いすを使う女性は「タクシー運転手は作業に15分ぐらいかかり、申し訳ない気持ちにもなった。商品のコンセプトが良いだけに残念だった」という。

ジャパンタクシーには運転手や乗客から「燃費が大変良い」「天井が高く、開放感がある」「シートヒーターがあって真冬でも快適」と良い評価もある。トヨタとして新たなUD車両に挑み、安全性などを向上させたことで作業が複雑になった面もある。だがUDを前面に打ち出しながら、運転手や車いすの利用者から多くの不満の声が寄せられた事実は重い。

1998年長野パラリンピックの金メダリストで、車いすを利用するマセソン美季氏は「企画段階から、利用者が意思決定にも参加できる仕組みがあれば」と望む。

マセソン氏が住むカナダでは、公共バスのボタンを押すとスロープが自動で出る仕組みがあるという。車いすの人だけでなく、ベビーカーやスーツケースなどを持つ人も利用しやすい。「日本社会は障害者や高齢者への特別な対応を感じることが少なくない。だれもがためらいなく、気軽に使える商品やサービスが増えてほしい」と話す。

トヨタは祖業の自動織機から自動車まで、使い勝手や価格を追求し、普及へのこだわりで成長してきた。今後は使い勝手がよい商品を世に出すため、企画や開発の仕組みそのもののカイゼンが課題となる。それは五輪・パラリンピックに向けてバリアフリーに取り組む、ほかの多くの日本企業や自治体にも当てはまる。ジャパンタクシーの教訓は大きい。

(工藤正晃)

[日本経済新聞朝刊2019年2月5日付を再構成]