香りだけじゃない 輝く器もめでる香水、日本にも続々
オブジェ? バッグ? 見目麗しいボトルやパッケージの中身は香水だ。近年、3万円前後から10万円を超える高級品が次々と登場。奥深い香りもさることながら、存在感あふれる器が話題だ。今、個性的な香水は世界的なブームに。アルチザン(職人)の手による工芸品や名もなき村の珠玉のワインに似た希少性の演出が、女性たちの鼻をくすぐる。
ネットの普及で新ブランド急増
昨夏開店した東京・銀座の「NOSE SHOP」。売り場に並ぶ赤と黒のボトルに男女が見入る。「これ面白いね」「不思議な香り」
イタリアの香水「ウナム」(2万9700円など)だ。作り手はローマ法王の祭服デザイナーで音楽家、画家と多彩な顔を持つクリエーターだ。ボトルは木やコンクリート製で、布をかぶった品もある。「聖なる服のアトリエ」「シンフォニーパッション」と名前も謎めく。
スウェーデンの「アゴニスト」は同国最古のガラスメーカーによる芸術性の高いボトルを採用。オブジェのような美しさで16万2000円だ。
「NOSE SHOP」は化粧品輸入販売のビオトープ(東京・港)の運営で、小規模生産の"ニッチフレグランス"を300種ほど扱う。「10年以降、香りとビジュアルにこだわった香水が各国で続々生まれた。日本で紹介されていないものが多く、輸入しようと思った」と社長の中森友喜さんは話す。
目に見えない「香り」を自分の世界観で染める――。香水はクリエーターの創造力を刺激するアイテムだ。近年、インターネットの普及で新ブランドが急増した。小規模でもコストをかけずに情報発信・販売できるからだ。イタリア、フランスを端緒に「個性派香水」ブームはカナダ、北欧、ロシアにも飛び火。ネットで話題になるためボトルの造形も競う。「新作をツイッターで紹介して100万回見られた品もある」(中森さん)
ニッチフレグランスは百貨店では扱われにくいため、ビオトープは自ら専門店を作った。17年、新宿に開店したところ反響が大きく銀座に進出。9日には六本木に売り場を開設する。
ファッションブランド系の香水も高級化を進める。イタリアの宝飾品ブルガリが14年に発売した「レ・ジェンメ」(4万4604円など)は同ブランドの香水でもっとも高額だ。宝物を収めた壺(つぼ)を模したフォルム。ターコイズ、ジェイド(ひすい)と宝石をイメージした香りの名称で、ボトルにもそれぞれの色をあしらう。
宝飾品のイメージを投影
輸入販売するブルーベル・ジャパン(東京・港)のパルファムコンサルタント、小磯良江さんは「宝飾品のイメージを投影したボトルの存在感が好評」と言う。小磯さんは「3年ほど前、有名ブランドが高額な香水を相次ぎ発売したのがきっかけで、ワンランク上を求める消費者が増えた」とみる。強い香りの洗濯用柔軟剤が普及したことも、個性的な香りを受け入れる下地になったという。
昨秋、日本に上陸した仏「キリアン」はコニャックで有名なヘネシー家一族が手掛け、「香水のロールスロイス」との異名を持つ。絵画や文学から着想した香水は宝石箱のようなケースに収められている。どくろをかたどったもの、蛇がデザインされたものもある。ジュエリーボックスやクラッチバッグとして使いたいと興味を持つ消費者も多い。価格は3万6720円だ。
日本の化粧品市場に占める香水のシェアは5%未満で、欧米よりはるかに少ない。このため百貨店も売り場作りには積極的ではなかった。だが、ようやくその潜在力に気づいたようだ。
昨年10月に改装オープンした三越日本橋本店は1階に「キリアン」「フレデリック・マル」といった、話題性の高いラグジュアリーフレグランスを集めた売り場を設けた。車寄せに近いVIP顧客の多い場所で、時間をかけて接客できるカウンターを配した。「2時間滞在するお客様もいる」と同売り場。
「香りの背景、作り手の思いに興味を持つ客が増えた。新ブランドでも香水のマニアの方が交流サイト(SNS)で発信してすぐ話題になる」と三越伊勢丹の日本橋化粧品セールスマネージャー・バイヤー、小橋隆志さん。女性ばかりでなく、自分に合う香りを選ぼうと訪れるビジネスマンも目立つという。
(編集委員 松本和佳)
[日本経済新聞夕刊2019年2月2日付]
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