アマゾン本社で見学ツアー 働き方刺激するシアトル旅
米北西部の大都市、ワシントン州のシアトルがいま刺激的だ。植物園のような球体オフィスが出現した米アマゾン・ドット・コム本社キャンパス周りは、どんどん変わりつつある。ただの都市旅行というだけではなく、働き方や世界への関心まで刺激を受けるシアトルの旅を紹介する。
シアトルへは、東京から約9時間の直行便ほか数多くの便が飛ぶ。なかでもシアトル-タコマ国際空港をハブとするデルタ航空は、成田空港-シアトル便が毎日運航しており、2019年3月2日からはフラッグシップの飛行機であるエアバス社A350-900型機を導入。4月2日には関空-シアトル便が就航し、関西と関東から直行便を運航する唯一の航空会社となる。シアトルは、まさに思い立ったらさくっと行きやすい米国本土の都市なのだ。
米マイクロソフト、米アマゾン、米スターバックスなど世界的な企業が本社を構え、高さ184メートルのスペース・ニードルがそびえ立つシアトル・センターでは、ポップカルチャーの博物館「ミュージアム・オブ・ポップカルチャー(MoPOP)」やガラス作品の庭園「チフリー・ガーデン&ガラス」などの観光スポットも楽しめる。スペース・ニードルは、1962年の万国博覧会のときに建てられたが、18年に大改装。展望台が全面ガラスになり、そこにガラスのベンチ「スカイライザー」が置かれ、まるで空中に座るような感覚が味わえると話題だ。地上約152メートルの回転レストランの床も一部がガラス張りになり、迫力満点。
スフィアの中は熱帯雨林のように植物が茂る
シアトルで今、一番注目のエリアはアマゾンが本社キャンパスを拡張しているサウス・レイク・ユニオン地区。以前は、倉庫街だったこのエリアにアマゾンが本社を移してきたのは10年前。以来、企業の成長とともに、街もどんどん変貌を遂げている。
アマゾン本社キャンパスの中でも目を引くのが、球体の植物園のようなオフィス「スフィア」だ。アマゾン社員のワークスペースだが、「スフィア」公開日(第1・3土曜)やアマゾン本社ツアー(スケジュールはウェブサイトで告知)の際には、一般入場ができる(ともにオンラインでの事前予約が必要)。一つの観光資源や教育資源ともなっていて、シアトルとの共栄という企業姿勢の表れでもある。
中に入ると、熱帯雨林のように植物がうっそうと茂り、なんと滝まで流れている。中心にどんとそびえる高さ約20メートルで約3700平方メートルもの緑の壁は、200種以上、2万5000株もの植物からなる。まさに森の中にワークスペースが点在する感じ。全体では約4万株の植物が育てられていて、中にはランや着生植物、また食虫植物や絶滅危惧種などの希少な植物もある。
昼間は温度約22度、湿度60%と植物と人が快適に共存できるよう保たれている。自然の中で新たな思考や発想を育もうという試みだ。ワークスペースや会議室、鳥の巣と呼ばれているユニークな空中スペース、そしてシアトルの有名シェフであるレネー・エリクソン氏が運営するカフェではおいしいドーナツも売っている。
スフィアがつくられた意図や設計、植物などについて展示されている「アンダーストーリー」というセクションだけは、スフィアと分離されていて、予約なしで月曜から土曜は午前10時から午後8時まで、日曜は午前11時から午後7時まで見ることができる。スフィアの植物は野生から採っていない。植物園や大学、個別の庭園などと提携して30カ国を超える国からやって来たのだ。そんな自然との共生にもポリシーが感じられた。
「アマゾン・ゴー」でハイテクコンビニを体感
この「スフィア」内には外から入れる飲食店もあり、18年11月に開業したイタリアンレストラン「ウィラモッツ・ゴースト」も、有名シェフのレネー・エリクソン氏が経営。アマゾニアン(アマゾン社員を地元ではこう呼ぶ)にも人気の月曜~土曜の午後4時~6時限定のハッピーアワーでは、ビールやグラスワイン、つまみがお手ごろだ。
また、アマゾン本社ビルの1階にあるノーレジのハイテクコンビニエンスストア「アマゾン・ゴー」(アマゾンアプリでQRコードを読み込めば誰でも入場可能)も要チェック。商品を棚から取って(棚に戻すのももちろんOK)そのまま店を出れば、購入した(持ち出した)商品だけちゃんと請求書が来る。お一人様用デリをイートインすることもできるし、お土産によさそうなオリジナルグッズもある。
サウス・レイク・ユニオン地区には、アマゾニアンも御用達の飲食店が続々できている。米国版料理の鉄人で優勝した有名シェフのトム・ダグラス氏が経営する「クオーコ」もそんな一つ。手打ちのパスタやローカル食材を使った肉料理が自慢のトラットリアで、こちらも月曜~金曜の午後2時~6時のハッピーアワーは、クラフトビールやつまみが6ドルからと狙い目だ。
アマゾニアンたちは、ハッピーアワーを軽く楽しんで(そこで一杯飲みながらビジネスアイデアを戦わせていることはあるかもしれないが)そのまま家に帰る人が多いという。部署による差や残務をこなす日もあるとはいうものの、家でスフィアでと、働く場所や時間の自由度は高そうで、働き方とその成果について考えさせられる。
シアトルには、この他にもマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が妻のメリンダさんと創設した「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」のディスカバリーセンターがあり、世界の貧困や医療をどうしたら改善できるかを個人レベルで気づかされる。インタラクティブな展示で答えを考える仕組みがとても面白い。場所は、スペース・ニードルなどがあるシアトル・センターのすぐ近くで、入場無料だ。
日本から飛びやすい米国本土シアトルは、観光だけでなく、仕事や生き方にも刺激を受ける都市である。
世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、フリーランスに。東京と米国・ポートランドのデュアルライフを送りながら、旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース多数。日本旅行作家協会会員。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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