写真はイメージ=PIXTA「老後に向け、どれぐらいの金額を自由に使ってよいものでしょうか」。今回、ふらりと家計の相談に来たのは男性Tさん(55)とパートで働く妻(54)。Tさんは役職定年を迎え、収入が4割ほど減りました。一方、この春に次男(22)が大学を卒業、就職と同時に実家を離れる予定です。「夫婦2人暮らしとなるなら、自由に時間を使って、海外旅行にもまとまったお金を使えればいいな」と思っています。よく聞くと、Tさんは食費に月11万円超も使う「メタボ家計」。このままでは老後の楽しみにお金を捻出するのは難しい状況でした。
■子供は独立、老後は楽しみにお金を使いたい…
妻はずっと家計簿を付けており、毎月の家計は数千円の黒字。教育費と住宅ローンの完済まで貯蓄は大幅に減り、今は300万円弱しかありません。これから支出が減るし、再雇用で仕事を続ける予定です。退職金も2000万円ほど出る見込みなので、老後資金は十分にあると考えています。年金は定期便を見ていると、夫婦計で320万円はもらえそうで、生活基盤は問題ないと判断。そろそろ楽しみにお金を使ってもよいのではないか、と考えています。
しかし現実はそう甘くありません。毎月の支出が多く、「メタボ家計」になっているのが問題です。息子が家を離れるからと言って、どこまで支出を削減できるか疑問です。必要があれば無計画に貯蓄を使ってしまう傾向も心配です。「これから楽しみにお金を使っていいですよ」と言うと、予算以上にお金を使い、老後資金を減らしてしまいかねません。
役職定年で収入が減ったにもかかわらず、「ねんきん定期便」の情報をうのみにしていることも心配です。ねんきん定期便の受給見込み額は、あくまで「収入が変わらなかった場合」が前提。収入が4割も減ってしまったTさんが、影響を受けないはずはありません。
■100歳までの生活資金を試算、医療・介護費もかかる
Tさんには計画の甘さが感じられたので、「ざっと見た限りでは老後資金が足りない可能性がある」とはっきり伝えました。思いもよらない話に、夫婦は驚いた様子。「では、いくらを老後資金としてキープできると安心でしょうか」と聞いていました。そこで必要な金額を計算します。
役職定年の減収分で年金は月当たり約1万円減る計算。1カ月の年金受給額は夫婦で26万円の見込みとなります。仮に今の生活費から10万円減らし月30万円で暮らせたとして、月4万円を補填する必要があります。65歳から100歳までの期間なら1680万円が必要となります。さらに、病気だ、介護だ、リフォームだと突発的なお金がかかると、資金が足りません。あと500万~1000万円をためないと安心できません。
「もっと貯蓄したほうがよい」と感じたTさん夫婦。お金を使いたいという気持ちから、少しずつためていきたいという気持ちに傾き、「家計改善の方法を知りたい」と話しました。
そこでまず、食費にメスを入れます。外食や中食が中心で、3人暮らしでも月11万円を超えています。血圧が高めで健康食品を購入しているほどなので、食費はできるだけ手作りを意識するようにしました。日用品費は洗剤などを買い置きし過ぎないよう気を付けます。通信費は夫婦でスマートフォン(スマホ)とタブレットを持っていましたが、片方に減らしました。交通費、交際費、娯楽費は、必要性が高くないものは小遣いから出すことにしました。小遣いの金額も、月1万円ずつ減らしました。
半年間も経過するとかなり慣れてきたようで、月支出は9万円削減できていました。年100万円超の貯蓄ができる計算です。楽しみの旅行などは、計画を立てて賞与(ボーナス)を利用していくことにしました。
■自分にとっての必要額、客観的に把握を
支出削減と並行してためていくためのルールを作り、定年退職までには500万円近くためることが可能になりました。さらに無駄な支出を見つけていけば、年金受給時までに、年金額の範囲で暮らせるかもしれません。
Tさん夫婦のように、老後の生活資金も見込みが甘い人は多くいます。役職定年により年金額が少なくなることで、Tさん夫婦よりも大きな打撃を受ける人もいるでしょう。老後資金について、各人の背景も知らないまま、例えば「5000万円必要です」というような助言は好みませんが、自分にとっての必要額を客観的にみることは大切です。そしてその必要額は年金の受取額だけでなく、自分たちの暮らし方、生活費の金額によっても大きく変わると心得ましょう。
(「もうかる家計のつくり方」は隔週水曜更新です)
横山光昭(株)マイエフピー代表、mirai talk株式会社取締役共同代表。顧客が「現在も未来も豊かな生活を送ることができる」ことを一番の目標に、独自の家計再生・貯金プログラムを用いた個別の指導で、これまで1万件以上の赤字家計を再生。著書は累計100万部を超える『年収200万円からの貯金生活宣言』シリーズ、累計65万部の『はじめての人のための3000円投資生活』シリーズがあり、著作合計88冊、累計270万部となる。講演も多数。 
著者 : 横山 光昭
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)
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