ブルガリCEO「次世代の顧客攻略へデジタル駆使」
若者のブランド離れをいかに食い止めるか――。海外の有名ブランド各社は話題づくりに加え、顧客との新たな関係構築に心血を注いでいる。なかでもイタリアの宝飾品、ブルガリはブランドの「アンバサダー(大使)」に木村拓哉さんの次女でモデルのKoki,さんを起用したり、活躍した女性を表彰する大規模セレモニーを開催したりするなど、日本での取り組みに力を入れる。デジタルも含めた新たなコミュニケーション戦略で独自の展開を進める最高経営責任者(CEO)、ジャン-クリストフ・ババン氏に手応えを聞いた。
――ブランド消費に関心が薄いといわれる次世代に向けて、ブルガリは若手アンバサダーの起用を重視しています。
「宝飾品を購入するのは卒業記念やブライダル、昇進、結婚記念日といった人生の大切な節目だ。そこでは信頼されているブランドでなければ顧客に選んでもらえない。我々は情熱をもって従来の顧客をフォローしているし、次世代にとっても重要なブランドでありたいと思っている。その双方の思いを示す日本市場でのブランドの顔をずっと探していた。ジュエリーアンバサダーとなったKoki,さんはうってつけの人材だ」
■日本法人が発案「活躍する女性アワード」
――昨年末には活躍した女性をたたえる「ブルガリ アウローラ アワード2018」の授賞式を東京で開催しました。
「アウローラアワードは文化、芸術、社会貢献、スポーツなど各分野で活躍した女性10人を選出する。昨年が3回目で作家の林真理子さんや建築家の妹島和世さん、女優の杏さんらが受賞した。女性を顧客に持つブルガリでは常に女性のみなさんに何かお返しをしたいと考えている」
「そもそもブルガリはジェンダーイコーリティー(男女格差の是正)に大きな価値を置いている企業。女性役員の数はイタリアの企業の中でも有数だ。実はこのアワードは日本法人が提案したアイデアで、本社も賛同した」
■若い世代にアピールしたい
――世界的に若い世代には高級ブランド消費に消極的な傾向がみられます。
「若い世代に向けたアンバサダーの起用で、コンテンポラリー(現代的)なブランドだということをアピールしたい。ブルガリはラグジュアリーブランドとはいえ、決して手の届かないものではない。スマートフォンを次々と買い替えられるのであれば、ペンダントや指輪だって購入できると思う。ジュエリーは古くなることはないのだから」
■デジタルで顧客との関係を再構築
――次世代に向けたアプローチではデジタルの取り組みが不可欠です。
「デジタル技術は人類にとって革命的であり、経営にとっても大きなインパクトがある。何より顧客とワン・ツー・ワン(一対一)の関係が築けることが大きい」
「ブルガリが小さなジュエラーとしてスタートした当時は、創業者が顧客を全員把握できた。その後企業が世界的に成長すると、全顧客の顔を見て関係を築くことが難しくなった。それが今、デジタルのおかげで、すべての顧客との関係を再構築することができるようになった」
――具体的にはデジタル技術をどう生かしていますか。
「商品の売買に活用するだけでなく、顧客に24時間、ブランドの知識を提供できている。顧客は商品やブランドの歴史、時計の修理方法について知り、アドバイスやカウンセリングを受けられる。我々はひとりひとりの顧客をサポートし、ブランド対顧客というよりも双方向の関係を築いている。いわばビスポーク(高級注文紳士服)のような関係だ」
「一方で人工知能(AI)を駆使すれば製品の需要予測ができ、どのようなサービスが望まれているのかを予知できる。ブルガリでは顧客の9割が最初のブランドへのアプローチでデジタルを活用している。創業時の135年前では店に行かなければ新商品は発見できなかった。いま消費者はまずウェブサイトで商品を見て、製品を試すために店舗を訪れ、ウェブに戻り、他ブランドと比較し、ブルガリを選んでいる」
――顧客とのコミュニケーションでもデジタル重視ですか。
「商品の販売では現在はブティックが中心だ。ただ、デジタルのおかげで来店頻度や売上高が上がっていることは明らか。顧客が店舗で購入するのか、オンラインで購入するのかは気にしてはいない」
「ただ、マーケティングについてはキーワード検索などで上位になるよう、デジタル広告に多額の資金を投じている。PRでは10年前は紙媒体、その後に動画と考えていたのだが、今では動画が最優先だ。やはりブランドの世界観が伝わるのは動画であると考えている」
■ダイヤモンドの新コレクション
――2019年、特に重点的にアピールする商品は何ですか。
「ジュエラーとして長い歴史を持っており、やはりジュエリーを優先させたい。まずは昨年、日本や中国でも発売したダイヤモンドの新コレクション『フィオレヴァー』。花びらをモチーフにしたデザインだ。まさにブルガリの花形として、何カ月もかけてブランドアイコンとして育っていくと感じている」
「また『ビー・ゼロワン』は20年の節目を迎える。気鋭の写真家を使った新しいコミュニケーションが春からスタートし、フィオレヴァーとビー・ゼロワンを組み合わせたキャンペーンも展開する」
「時計メーカーとしては、蛇から着想した『セルペンティ』、男性用の『オクト』が好評なので、力をいれていく」
(聞き手は編集委員 松本和佳)
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