毎年20%増で売れる塩 ユニークな社名が思い伝える

脱サラファクトリーの「自凝雫塩(おのころしずくしお)」。パッケージにも工夫を凝らした
脱サラファクトリーの「自凝雫塩(おのころしずくしお)」。パッケージにも工夫を凝らした
日経クロストレンド

製塩業の「脱サラファクトリー」(兵庫県洲本市)が手掛ける「自凝雫塩(おのころしずくしお)」は、兵庫・淡路島の海水のみで作る塩だ。自発的な営業活動は4年ほどしていないというが、2013年の創業以来「売り上げは1.2倍のペースで伸び続けている」と末沢輝之社長。創業時から始めたブランディングも好調な業績に寄与している。社名や製品名決定に潜むブランディングのテクニックを解き明かす。

海水をくみ上げる作業から、煮詰めて完成させるまで、すべて手作業で行われている。原材料は海水のみで、余分なものは一切入っていない
末沢輝之脱サラファクトリー社長。1980年生まれ。塩職人

ブランディングは、グラフィックデザイナー・アートディレクターであるGRAPHの北川一成氏が手掛けた。末沢社長は外食産業に長く勤務し、日本には海の成分をしっかり含んだ塩が少ないことを知り、一念発起。脱サラして塩職人の道を歩み始めた。末沢社長は「塩の違いは見た目では分からない。だからこそ、塩作りの思いや特徴を伝えることが重要だ。パッケージデザインには私の塩作りへの思いが伝わるように、感情が揺れ動く仕掛けがいくつも盛り込まれている。それが購買につながっているのだろう」と話す。

課題:ブランド力の不足をどう補うか

末沢社長からGRAPHにブランディングの相談があったのは、12年。その時点では、社名や商品名、取引先も決まっていなかった。立ち上げたばかりの無名の会社は「新しさ」という魅力はあるが、「信用や信頼、安心感といったブランド力がないことは課題の一つ」と北川氏。商品を市場に流通させ続けるためにも、末沢社長が作る塩を売りたいと思ってくれる取引先との「出会い」が重要だ。ただ、「どんなに品質の高い商品であっても、初めて訪れる営業先でじっくり話を聞いてもらうことは容易ではない。25年以上前、GRAPHが東京に進出して営業したときも、話を聞いてもらえず苦労した。そのときブランド力の大切さを身に染みて感じた」(北川氏)。

営業先で塩作りに対する末沢社長の熱意や思いを聞いてもらうチャンスをつくり、商品のファンになってもらうためにも、「コミュニケーションを誘発させる仕掛けが必要。なぜ塩作りを始めたのか知りたくなる──そんなパッケージや社名にすべきだと考えた」(北川氏)。

もう一つ課題があった。ブランディングに投資できる予算が少なかったことだ。北川氏は、永続的に会社を発展させるためにも経営戦略の見直しを提案し、コンサルティングも行うことになった。

検討:「脱サラ」を会話の糸口にする

パッケージデザインと社名は、同時進行で検討した。パッケージの役割の一つは「塩の特徴や作り手の思いを伝えること」と北川氏。店頭で目を引き、手に取ったら末沢社長の思いが伝わる──そんなパッケージを目指し、経営理念や塩の特徴などをつづった文章をパッケージに入れることを検討した。

塩作りへの思いをつづった文章が、パッケージの側面と背面に入っている

社名について末沢社長は当初、「五色浜で作る塩だから、五色浜製塩所」というアイデアを持っていた。それに対して北川氏は「五色浜製塩所と聞いたら、昔から由緒正しい塩作りをしているように感じる。だが、実際には歴史も伝統もないので、その社名からはコミュニケーションは生まれないと思った」。

次のページ
解決策:意味を限定しないマーク
MONO TRENDY連載記事一覧