男子バスケットボールBリーグの会場でイベントに参加する産業能率大の学生(18年12月、横浜市)大学がプロスポーツと組んでスポーツビジネスを支える人材の育成に力を入れ始めた。マーケティング理論に基づく集客策の提案や選手の動作解析、栄養指導などテーマは様々で、より実践的な授業が目立つ。ラグビーワールドカップや東京五輪・パラリンピック開催を前にスポーツへの注目度が高まっており、大学とプロチームの連携はさらに進みそうだ。
「平日のプロバスケットボールの集客力を高めよ」。こんなミッションに挑戦するのは、産業能率大学経営学部が開く演習科目「スポーツマーケティングリサーチ」だ。同大がリーグ設立時から協力関係にあるBリーグの横浜ビー・コルセアーズとの連携科目。今回で4年目を迎えた。
約30人の受講生が1班4人に分かれ、チームから与えられた課題に対して、講義期間中の試合開催日に学生自らが運営する前提で企画立案する。18年10月に平日開催の試合を見学し、課題や提案の材料を模索。12月初めに横浜ビー・コルセアーズの植田哲也球団代表に向けて提案を競った。
「仕事帰りの24歳のOLを想定して平日限定のスタンプカードを作る」といった具体的なユーザー像を想定するペルソナ分析や、強みや弱みなどの軸で評価するSWOT分析といったマーケティング手法を用いたのが、各提案の特徴だ。
短い準備期間でも実現可能な案を精査し、選手の似顔絵コンテストや風船で遊べるキッズスペースの拡充など5つの案が選ばれた。クリスマス直前の週末で小さい子供連れの家族が多数来場。学生たちはブースに来てもらおうと子供たちに積極的に話しかけた。
経営学部3年の中村航大さんはプロ野球・DeNAの球団経営などスポーツビジネスに興味を持ち受講を決めた。「遊び場はあっても子供のイベントがなかった。気軽に参加できる似顔絵コンテストを提案した」と話す。
植田球団代表は「チームの本拠地は横浜の住宅地にあるため、平日開催時にはファミリー層以外の集客に苦戦している。若い学生のアイデアを基に来場者を楽しませたい」と狙いを明かす。
■麗沢大は地元J1チームと連携
麗沢大学は18年に経済学部にスポーツビジネス専攻を新設した。受験時点で専門的に学びたいという意志をもった学生が地方からも集まったという。60人の学生のうち、約半数は現役アスリートだという。
麗沢大は柏レイソルと連携し、学生がファン感謝デーなどのイベントに関われる機会を提供している人気の看板授業がJリーグの地元チーム、柏レイソルとのプロジェクト型講義だ。麗沢大は17年、社員による学内講義やインターンシップ生の受け入れなどをテーマに教育連携協定を結んだ。ファン感謝デーやホーム開催でのイベント、年間シートの特典グッズなど、クラブから与えられた課題に対して学生が企画提案に取り組む。
授業としては経営学を基礎から学ぶほか、地域でのスポーツ指導やクラブ運営に必要な日本スポーツ協会公認の2資格取得が必須とした。豊嶋建広特任教授は「健康・福祉産業などより広い意味でスポーツ産業に携わる人材を育てるのが使命」と強調する。
クラブ側にも減りつつあった女性や若者の集客増に向け、学生の知恵を借りたい思惑があった。18年からは千葉ロッテマリーンズの柏市の後援会とも同様の授業を始めた。豊嶋特任教授は「点と点だったスポーツと経営の知識がつながり、線になるのを実感できるはずだ」と語る。
スポーツや健康産業にIT人材を輩出しようとしているのが神奈川工科大学だ。日本はスポーツへのICT(情報通信技術)の導入が遅れていることから、15年に情報学部にスポーツ情報科学コースを新設した。動作解析や生体計測などを通じて、情報機器の仕組みや情報処理技術を学ぶ。
情報学部には音声情報を解析するコースもあり、スポーツと音の関連を分析する「スポーツ音響学」という独自の学問分野も始めた。
山口県立大学では栄養学科の学生がJリーグのレノファ山口FCの18歳以下のチーム向けに栄養指導と調査を手掛ける。スポーツ栄養学に関心のある学生が年2回、体組成の測定や理想的な食事を調理し、栄養摂取について説明する。
■東京五輪・パラが追い風に
東京五輪・パラリンピック開催決定を追い風にスポーツ関連ビジネスは拡大している。政府はスポーツ市場を2025年までに12年比3倍の15兆円にする目標を掲げる。16年に示した「日本再興戦略」でスポーツ経営人材の育成・活用プラットフォームの構築も掲げられ、スポーツ関連の新学部・学科の設置が広がる。19年には全米大学体育協会(NCAA)を参考にした、大学スポーツの統括組織の新設も予定されている。
スポーツビジネスは地域振興の中核になりつつあり、地方創生にもつながる。選手以外にも専門性を生かしてスポーツビジネスでプロになり得る機会があると大学から発信することで、多くの分野から市場創出に挑戦しようという若者も増えるだろう。
(小柳優太)
[日本経済新聞朝刊2019年1月30日付]
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