写真はイメージ=123RF「年金開始、75歳も選択肢」というタイトルの記事が1月26日付日本経済新聞朝刊1面に出ていました。このタイトルを見て「え!年金って75歳からじゃないともらえなくなるの?」と勘違いした人もいたかもしれません。
実際、「やっぱり年金はダメだ」とか「国のいうことは信用できない」とかいった声が聞かれるように若年世代の年金不信は根深いものがありますが、記事をよく読めばわかるようにこれは年金が75歳からしかもらえないというわけではありません。
記事は厚生労働省が公的年金の受給開始年齢を75歳まで繰り下げられるようにする検討に入ったとの内容です。いまは70歳開始が繰り下げの限度ですが、働く高齢者を増やす呼び水にするため、もっと高齢になってから年金をもらう選択肢をつくるのが目的です。
■年金は60歳~70歳までの間で自由に受け取り開始
現在、一部の例外を除くと年金の支給開始年齢は65歳からですが、これは必ずしも65歳からしか受け取れないわけでもなければ、受け取らなければならないというわけでもありません。希望すれば65歳を挟んで最長5年、早く受け取り始めることも逆に受け取りを遅らせることもできます。
言い換えれば、年金というのは「60歳~70歳までの間で自分の好きなとき、自由に受け取りを始めることができる」ようになっているのです。今回、検討されているのはその選択の幅を75歳まで広げようというだけのことです。私はこれを決して悪いことではないと思っています。
公的年金の場合、受け取り開始時期によって金額が違ってきます。65歳よりも早く受け取る場合は、金額は少なくなりますし、遅く受け取る場合は、金額は多くなります。
具体的には、5年早めて60歳から受け取り始めると65歳開始に比べ30%減、逆に5年遅らせて70歳から受け取り始めると同42%増になります。今回はこれに加えて、もし75歳まで遅らせた場合、およそ1.9倍に増えるという案です。
■受給開始まで自分が元気で働けるうちは働く
「まあ、いくら75歳からだと2倍近く増えるといっても、元気でいられなきゃしょうがない」と考える人もいるでしょう。それは全くその通りです。いくらお金だけあっても健康でなければ有効に使うことはできません。
しかしながら、人の生き方は様々ですし、健康状態だってそれぞれ異なります。要は人それぞれ、自分が元気で働けるうちは働いて、そこから年金を受け取り始めればいいのです。それが60歳であっても75歳であっても構いません。選択肢が広がるということなのですから、決して悪いことではないでしょう。
総務省の労働力調査によれば、70歳以上で働いている男性の割合は20.9%(2017年)だそうです。これらの人の中には、もしできるのなら75歳まで年金受給を繰り下げたいという人もきっといるでしょう。だとすれば、就労期間も含めた老後の働き方は選択の余地が一段と広がり、多様化することになりそうです。
■一定の収入があると年金が減る制度は見直しを
国の目指す「一億総活躍社会」の実現のためにはこのような年金受給開始年齢の弾力化は好ましいことです。が、それを目指すのであれば、一定の収入がある高齢者の年金が減る「在職老齢年金」制度の見直しが必要でしょう。働ける能力もあり、働ける機会がありながら、そのために働く量をセーブしているとすれば、実にもったいない話だと思います。
「働いて収入があるのなら、年金を受け取るのは少し遠慮してほしい」という考え方はわからなくもないですが、年金というのは現役時代に納めた保険料がベースになって計算されています。リタイア後に収入があるからといって減額されるのは理不尽だという考え方もあります。
もちろん、在職老齢年金を撤廃すると年金財政は悪化します。実現はなかなか難しいだろうとは思います。しかしながら、高齢者の労働参加が進めば、人手不足の解消にもなり、経済成長が促進されることで財政も好転する可能性があります。そうした意味でこの制度の見直しはぜひ検討してもらいたいものです。
大江英樹野村証券で確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。著書に「定年3.0 50代から考えたい『その後の50年』のスマートな生き方・稼ぎ方」(日経BP社)、「定年男子 定年女子 45歳から始める『金持ち老後』入門!」(同、共著)など。http://www.officelibertas.co.jp/ 
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