紅茶、玉露、ほうじ茶… 料理味わうティーペアリング
フレンチやイタリアンで、注文した料理に合わせて最適なワインなどを勧めてくれる「ペアリング」。料理と酒を楽しめるので人気があるが、酒を飲めない客には選択肢がない。そこで現れたのが、酒の代わりにお茶を合わせる「ティーペアリング」という新コンセプトだ。健康とグルメの融合というトレンドも追い風になっている。都内でティーペアリングを楽しめる2店を紹介する。
1店目は代々木上原にある「sio(シオ)」。シェフの鳥羽周作氏は大学卒業後、サッカー選手や小学校教師などを経て、32歳で料理の道に進んだ。同店では鳥羽氏が革新的といえる料理を提供、ソムリエの亀井崇広氏がペアリングを提案するが、ワインのほかにノンアルコールを希望する客にティーペアリングを提供する。ランチ、ディナーともコース料理のみとなる(ランチ6皿5800円、ディナー10皿1万円、どちらも税別、ペアリング別料金)。
鳥羽シェフの看板メニューといえるのが「馬肉」だ。歯ごたえ抜群のクラッカー状に焼いたパン生地に、洋ナシとスパイスで香りをつけた、韓国料理のユッケのように細かくきざんでやわらかい馬肉がのっている。甘じょっぱいような、なんとも不思議でクセになる味わいだ。
料理自体も相当インパクトがあるが、合わせるお茶も負けていない。ワイングラスに注がれた、ピンク色に泡立つ冷茶だ。花の香りを3倍に強めたというジャスミン茶に、ザクロとクランベリーの果汁を加え、炭酸ガスを注入したオリジナルティー。飲むとジュースなのか、お茶なのか、分からないが、おいしく感じる。同じ色の料理との相性も抜群で、この独特な世界観をもっと知りたくなる。
次は、鳥羽シェフの新作メニュー「烏賊(イカ)」。クレソンとセロリ、ハーブのサラダの下に、アオリイカとイカスミ、濃厚なイタリアのブッラータチーズを合わせたものが隠れている。スプーンですくって食べる。甘くほろ苦いクリーム状のチーズに野菜のシャキシャキ感が重なり、未体験の味だが後を引いて、ペロリと食べてしまう。ペアリングするのは中国の紅茶「キームン」に、ライチとコショウのエキスを加えた冷たいお茶。甘いフルーツと、バニラエッセンスのような香りも感じ、イカスミのまろやかさとぴったりで、ぐいぐい飲んで食べてしまう。
「僕たちが表現したい世界観を、酒を飲めないお客さまにもフルコースでお伝えしたいと、ティーペアリングを始めました。酒を飲む人にとっても、飲まない人に気をつかわず、ゆっくりワインを楽しめるというメリットもあります。茶席でもてなしの心を表したように、僕たちもティーペアリングで『現代の茶室』を再現したいのです」(鳥羽氏)
もう1店は恵比寿にある「HaRe Gastronomia(ハレ ガストロノミア)」だ。都内の老舗イタリア料理店などで修業を重ね、料理長を歴任した高山直一氏が、日本の24節季を表したイノベーティブな料理を完全予約制で提供している。イタリアンのエッセンスも入れているが、日本の懐石料理がベースになっており、同店でのティーペアリングは日本茶しか使用しない。先付から始まる懐石のフルコースのみ(1万2000円、税別、ペアリング別料金)で、15皿前後を提供するうち2皿ごとに異なる日本茶をペアリングさせている。
日本茶のみと言っても非常にバラエティー豊かだ。コースの最初は玉露の冷茶からスタートし、食材の味わいに合わせていぶしたサバにはスモーキーな香りの熱い番茶、こってりしたブリや熟成和牛には甘くふくよかな茎ほうじ茶、最後のご飯と吸い物には香ばしい黒豆茶、と様々なお茶が登場する。
前菜の八寸は「パルミジャーノ・レッジャーノのクレーマと黒トリュフ」「フォアグラの西京漬 千枚漬けとあんぽ柿」「あん肝と奈良漬けの最中」など5品で構成。濃厚なチーズやフォアグラのような食材が多いため、芳醇(ほうじゅん)な風味が特徴の宮崎産「紅焙(べにほうじ)」茶を合わせる。チョコレートを思わせる香ばしさもある。
「ノンアルコールを希望するお客さまが増えてきたのですが、アルコールフリーのワインやシャンパンだと、甘みが強すぎて日本料理がベースの僕の料理と合わないのです。しかし、日本茶はぴったりはまり、また日本茶だけでも茶葉の種類や製法、産地別に数え切れないほどの種類があり、無限のペアリングができます。さらに日本酒に冷酒、ぬるかん、熱かんがあるように、お茶は温度でも違う味わいが出せるのです」(高山氏)
ティーペアリングは体験すればするほど奥が深い。不思議なのは食事を終えた後、ワインとは別種の多幸感が得られることだ。家で緑茶や紅茶を何杯飲んでもこうはならない。やはり食のプロしか提供できないテクニックなのだろう。「ノンアルコールでヘルシー」という要素以上の良さを感じさせるティーペアリング。「アルコール抜きでフルコースなんて」と先入観があった人にも、興味を持って挑戦してみてほしい。
(フードライター 浅野陽子)
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