スマホアプリで送金、手数料ゼロ 広がるサービス現金引き出し、不可のサービスも

写真はイメージ=PIXTA
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休日の筧家。ダイニングテーブルでは良男と幸子と満がスマートフォン(スマホ)を使ったキャッシュレスサービスの話題で盛り上がっています。満がアプリの操作方法を説明していると、良男が突然、仕事用のカバンを持ってきて、焼き菓子を取り出しました。

筧(かけい)家の家族構成
筧幸子(48)良男の妻。ファイナンシャルプランナーの資格を持つ。
筧良男(52)機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。
筧恵(25)娘。旅行会社に勤める社会人3年目。
筧満(15)息子。投資を勉強しながらジュニアNISAで運用中。

筧満 パパ、急にどうしたの?それにこのお菓子は?

筧良男 出張した後輩に頼んで有名店で買ってきてもらったんだ。代金を渡そうとしたら「個人間送金サービスで送ってください」と言われてね。何のことだか分からず、結局、お菓子を受け取る際に現金で支払ったんだよ。今、満が説明してくれたアプリの画面が、同僚が見せてくれたのと同じだったから思い出したんだ。そもそも個人間送金サービスってなんだい?

 友達や知人、家族などの間でスマホのアプリを使って簡単にお金をやりとりできるサービスだよ。同じサービスの利用者同士なら食事会や飲み会の会費、共同で買ったプレゼント代などを集めたりできるほか、パパみたいに買い物を頼んだ際の代金を受け渡すのに現金をやりとりせずに済むんだ。相手の銀行口座の番号などを知らなくても送金できるので、手軽で便利だよ。

良男 そんなサービスがあるなんて知らなかったな。

筧幸子 日本資金決済業協会が2018年、全国の20~69歳を対象にした調査では、個人間送金サービスを「知っている」と回答した人は20%。16年(21.3%)に比べて微減したものの、「利用したことがある」との回答は0.7ポイント増の9.5%と微増しているわ。スマホに慣れ親しんだ若者を中心に一定の認知度があり、利用者も徐々に増えつつあるようね。

良男 なかなか便利そうだな。どうやって使うんだい?

幸子 スマホにダウンロードしたアプリを操作してやりとりするの。銀行口座やコンビニの店頭、クレジットカードなど所定の方法で入金し、その範囲内で送金できるわ。離れた相手に送金する際はアプリを操作して相手を指定するだけだし、対面する相手ならスマホに表示したQRコードを読み込む方法でやりとりできるの。

良男 受け取ったお金はどうするんだ?

 アプリの運営会社が提供するサービスごとに異なるけど、自分の銀行口座に振り込んで引き出せる例があるよ。ほかにも、加盟店での買い物の支払いに充てたりもできるんだ。LINEペイみたいに決済も送金も同じアプリでできる例もあるんだよ。

良男 ところで、個人間送金サービスはなぜ必要なんだろう?

 政府はクレジットカードや電子マネー、デビットカードなどを使ったキャッシュレス決済比率を現在の約2割から4割まで引き上げる目標を掲げているよね。支払いに現金を使わない世の中になっていくと現金を持ち歩く機会も減るので、個人間送金サービスのように少額のお金のやりとりを簡単にできる仕組みを充実させることが重要になるんじゃないかな。

幸子 三菱総合研究所主席研究員の奥村拓史さんによると、個人間送金で先行したのは英国だそうよ。1990年代から大規模な実用化実験をした電子マネー「モンデックス」には個人間の送金機能があったそうね。モンデックスは普及はしなかったけれど、個人間でもキャッシュレス決済ができる仕組みが普及し現金のようにやりとりできるデジタル通貨が広がれば、紙幣や硬貨を発行したり運搬したり、お店で受け取った現金を数えたりといった「社会的コスト」を引き下げられると奥村さんは話しているわ。

 海外の個人間送金サービスの代表例としては、大手銀行が共同で開発したスウェーデンの「スウィッシュ」、米国では「ベンモ」などのサービスがあるよ。

良男 銀行口座に振り込むのでは駄目なのかい?

幸子 銀行口座を通じた送金の場合、手数料がかかることがあるわ。同じ銀行の口座同士など一定の条件をたせば無料になることもあるけど、異なる銀行で開設した口座への振り込みは1回当たり数百円はかかるの。一方、個人間送金サービスの場合は無料で利用できるのが一般的よ。1回当たりや1日、1カ月単位で限度額があったりするけど、主に少額のやりとりに使うなら便利といえるわ。

良男 なるほど、便利だな。今度から満のお小遣いやお年玉は全部、個人間送金サービスで渡すことにしよう。

 えー。全額だと、ちょっと困るかも……。

良男 どうしてだい?

 個人間送金サービスで受け取った現金を引き出すには、手数料がかかる場合があるんだよ。例えば、LINEペイの場合、1回につき216円かかるんだ。もっとも、幅広いお店で支払いに使えるから、利用できる店舗で優先的に支払いに充てればいいんだけどね。

幸子 マネータップというアプリは、チャージすることなく相手の銀行口座に入出金できるの。相手の口座番号などが分からなくて送金できるうえ、現在は手数料も無料よ。利用できるのはりそな銀行や住信SBIネット銀行など一部に限られるけど、今後広がっていく可能性があるわ。手数料だけでなく、機能や用途も考慮して使い分けてもいいかもしれないわね。

■本人確認など異なる手続き
三菱総合研究所主席研究員 奥村拓史さん
個人間送金サービスは運営会社ごとにその内容や利用までの手続きが異なります。例えば、LINEペイは現金として引き出したり加盟店で決済したりできますが、不正な資金洗浄に悪用されないよう自分の預金口座に関する情報の入力など厳格な本人確認手続きが必要です。一方、Kyashは本人確認は不要ですが、現金として引き出せません。マネータップは現金として引き出せますが、加盟店での支払いといった決済には使えません。
これは各社の業態が異なるためです。Kyashは前払い式支払手段ですが、LINEペイは加えて資金移動業でもあります。法律で業務の範囲が定められているのです。どの業態にあてはまるのかは運営会社が自社のサイトで明示しています。サービスを選ぶ際の参考にするとよいでしょう。
(聞き手は藤井良憲)

[日本経済新聞夕刊2019年1月30日付]

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