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女性落語家が面白い 負けてられません

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

「落語家さんって何人くらいいるんですか?」とたまに聞かれることがある。東京だけでも600人弱と答えると、決まって「そんなに多いんですか」と驚かれる。確かに東京の落語界に所属している落語家だけで600人と考えたら、多い気がする。そして、この約20分の1にあたる30人弱が女性だ。今回はこの女性落語家について書いてみたい。

昔ながらの古い世界であり、古典落語には男尊女卑と感じる描写もたくさん残っている。遊郭が舞台の廓噺(くるわばなし)など主に男目線で組み立てられたネタだって多い。だから、男性よりずっと少ないのは仕方ない気がする。それでも僕が入門した2010年あたりから、女性落語家がグンと増えてきたという実感もある。

しかも従来の古典落語を女性目線で捉え直したネタや、女性が聴いたら「わかる~!」と圧倒的に共感される新作を得意とする方も出ている。「女性だから」などという言葉は不要で、ただただ落語家として面白い。

落語愛好家の中には「女に落語はできない」みたいな考え方を持っておられる方もいるようだけど、時代は変わったと僕は思っている。面白いと尊敬できる女性落語家が何人もいる。

僕が所属する落語立川流には3人の女性落語家がいる。

1人目は立川こはる姉さん。立川談春師匠の一番弟子で、若手女流落語家の先頭を走るひとり。小柄でときに線の細い風貌とは反対に、高座はとてもエネルギッシュだ。立川流初の女性落語家であり、色々と困ることもあったと思うけど、持ち前の努力と根性で道を切りひらいてきた。

技術面でも人気でも、正直なところ現状の僕は負けている。僕が演じる八五郎よりも、姉さんが演じる八五郎の方がよっぽどべらんめえ口調で江戸っ子らしい。自分もあんな風に落語を演(や)れたらなぁと思うことが少なくない。めちゃくちゃ後輩の面倒見もいい。昨年に僕が禁酒を始める前は、夜な夜な姉さんにお酒をご馳走(ちそう)になっていた。

2人目は立川だん子さん。立川談四楼師匠の三番弟子で僕の後輩だ。もともとは大手企業で翻訳の仕事をされていたらしい。あるとき落語の面白さに目覚め、会社を辞めて談四楼師匠に弟子入りを志願された。楽しそうに高座を勤める姿は、見ているだけで本当に落語が大好きなんだなぁと伝わってくる。

そんなだん子さんの特異な点は年齢だ。公表されていないので本当のところはわからないけど、どうやら僕より一回り近く年上らしい。

年齢じゃなく入門順で序列が決まる落語会では、どれだけ年下でも先に入門した人間が先輩になる。だから僕にとってだん子さんはずいぶん年上の後輩になる。いくら年上だろうと、ましてや女性だろうと、落語界の上下関係は絶対だから僕より多くの荷物をだん子さんは持たなくちゃいけない。そして余程じゃない限り、重そうに荷物を持つだん子さんを僕も手伝ったりしない。前座修行とはそういうものなのだ。

一度こんなことがあった。だん子さんと公民館での落語会を終えた帰りの電車。大きな荷物を持つだん子さんを見かねたのか、大学生らしき青年が「どうぞ座ってください」と席を譲ろうとしてくれた。「席を譲られる前座」を初めて見た僕は、頭の中で勝手に面白がりながらも「せっかくだから座りなよ」と声をかけた。だけど、気配り上手で先輩を立てるだん子さんは「いえ、兄さんが座ってください」。これには困った。

入門した順番で上下関係が決まるからと言っても、それは落語界での話。僕が座ったら青年や周りの乗客はどう思うだろうか。「なにあのおっさん。お母さんにあれだけたくさん荷物を持たせて平気なのか」と思われてしまっている可能性が十分にある。さらに僕が座ったら最低なドラ息子と思われる。当然ながら「いや、だん子さんが座っていいよ」と言ったけど、先輩を立てるだん子さんは「滅相もございません。兄さんが座ってください」の一点張り。「自分が悪者になることで場が収まるなら」と思い、結果20代の青年が譲ってくれた席に30代の僕が座った。降りる駅までの間、周囲の視線が突き刺さる突き刺さる。まさに落語のネタのような展開になってしまった。

 3人目は立川志ら鈴(しらりん)さん。立川志らく師匠の十四番弟子で、彼女も僕の後輩だ。3人の中では唯一の前座で、今もまだ毎日忙しく下働きしている修行中の身だ。

ほんわかとした感じの容姿とは違い、内面は負けん気が強く、熱いものを持ったタイプだと思う。3年前だったか、とある打ち上げで志ら鈴さんと話す機会があった。会話の流れで志ら鈴さんが「私は3年で二ツ目に昇進します!」と宣言した。

僕もみんなの前で大きなことを言って自分にプレッシャーを与え、それを熱量に変えるタイプだけど、同時にどこまでが実現可能なのかシビアに考えることもしている。客観的に判断すると、当時、あと数カ月で入門から3年を迎える志ら鈴さんが昇進するのは難しいだろうなぁと思った。だから「いやぁ、それは無理だと思うよ」と答えた。

先輩後輩の間柄でもあり、普通はそこで話が終わるところだけど、その日はなぜか志ら鈴さんの熱量がすごくて「いや、絶対に3年で昇進します!」と言い返してきた。

すてきな先輩なら「おぉ、頑張りなよ!」と背中を押すんだろうけど、僕はそんなできた人間じゃないし、酒を飲んでいたこともあって「いや、どう考えても無理だから!!」ともっと強く否定した。やはり普通だったら、かなりの熱量で先輩から押し返されたら飲み込まれてしまうだろうに、志ら鈴さんは繰り返した。「いや、私は絶対に三年で昇進します」。

二人とも火がついちゃっているから、「昇進する」「無理」「昇進できる」「無理」の押し問答。揚げ句、酔っ払って気が大きくなっていた僕は「じゃあ、もしお前が3年で昇進したら祝儀で着物買ってやるわ!」と言ってしまった。正絹の着物となると数十万円はかかる。それを聞いた志ら鈴さんは「ありがとうございます!約束ですからね!!」と、強気のまま乗っかってきた。

翌日、酔いが冷めた僕は困った。志らく師匠の求める基準がとてつもなく高いこともあって、3年で昇進するのはやっぱり無理だと思うけど、万が一、昇進が決まれば、後輩への約束をうやむやにするわけにはいかない。つまり、数十万円払わなきゃいけない。でも、当然、そんなお金はない。

こうも考えた。もし志ら鈴さんが昇進まで3年より長い期間をかけたとしても「ほら見たことか!」と自分の正しさを誇示することはできない。「3年とはいかなかったけど、昇進おめでとう」と語りかけ、後輩に大人げない態度をとったことをわびる意味を込めて、相場より多めの祝儀を渡すべきだろう。僕は来たるべき日に備え、コツコツと小銭貯金を始めた。

そんな志ら鈴さんがこの4月1日、ついに二ツ目に昇進することが決まった。数年前から志らく一門の二ツ目昇進基準に長編歌謡浪曲「俵星玄蕃(たわらぼしげんば)」という高難度な課題が追加されたこともあって、志ら鈴さんの前座修行は丸6年に及ぶことになった。心折れずによく頑張ったと本当に思う。

僕はといえば、あれ以来律義に小銭をコツコツため続けたから、先日貯金箱を開けたら着物は買えないにしても、高級な帯を数本買えるくらいの額はたまっていた。それを全て志ら鈴さんにあげようと思っている。

前座は修行期間だから、基本的にはやりたい落語を全力でやることはできない。志ら鈴さんは今、「あれがやりたい」「これもやりたい」と、やりたい落語のことで頭がパンパンに膨れ上がっているに違いない。

4月3日の夜、武蔵野公会堂ホールにて「立川志ら鈴二ツ目昇進披露落語会」が催されます。立川流の今後を担う若手女流落語家の記念すべき第一歩を見にいかれてはいかがでしょうか。希望に満ちあふれた瑞々(みずみず)しい落語が聴けると思います。

立川吉笑
 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。古典落語のほか、軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載する一方、多くのテレビ出演をこなすなど多彩な才能を発揮する。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)

これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧下さい。

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