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立川談笑、らくご「虎の穴」

女性落語家が面白い 負けてられません 立川吉笑

2019/2/3

3人目は立川志ら鈴(しらりん)さん。立川志らく師匠の十四番弟子で、彼女も僕の後輩だ。3人の中では唯一の前座で、今もまだ毎日忙しく下働きしている修行中の身だ。

ほんわかとした感じの容姿とは違い、内面は負けん気が強く、熱いものを持ったタイプだと思う。3年前だったか、とある打ち上げで志ら鈴さんと話す機会があった。会話の流れで志ら鈴さんが「私は3年で二ツ目に昇進します!」と宣言した。

僕もみんなの前で大きなことを言って自分にプレッシャーを与え、それを熱量に変えるタイプだけど、同時にどこまでが実現可能なのかシビアに考えることもしている。客観的に判断すると、当時、あと数カ月で入門から3年を迎える志ら鈴さんが昇進するのは難しいだろうなぁと思った。だから「いやぁ、それは無理だと思うよ」と答えた。

立川志ら鈴さん

先輩後輩の間柄でもあり、普通はそこで話が終わるところだけど、その日はなぜか志ら鈴さんの熱量がすごくて「いや、絶対に3年で昇進します!」と言い返してきた。

すてきな先輩なら「おぉ、頑張りなよ!」と背中を押すんだろうけど、僕はそんなできた人間じゃないし、酒を飲んでいたこともあって「いや、どう考えても無理だから!!」ともっと強く否定した。やはり普通だったら、かなりの熱量で先輩から押し返されたら飲み込まれてしまうだろうに、志ら鈴さんは繰り返した。「いや、私は絶対に三年で昇進します」。

二人とも火がついちゃっているから、「昇進する」「無理」「昇進できる」「無理」の押し問答。揚げ句、酔っ払って気が大きくなっていた僕は「じゃあ、もしお前が3年で昇進したら祝儀で着物買ってやるわ!」と言ってしまった。正絹の着物となると数十万円はかかる。それを聞いた志ら鈴さんは「ありがとうございます!約束ですからね!!」と、強気のまま乗っかってきた。

翌日、酔いが冷めた僕は困った。志らく師匠の求める基準がとてつもなく高いこともあって、3年で昇進するのはやっぱり無理だと思うけど、万が一、昇進が決まれば、後輩への約束をうやむやにするわけにはいかない。つまり、数十万円払わなきゃいけない。でも、当然、そんなお金はない。

こうも考えた。もし志ら鈴さんが昇進まで3年より長い期間をかけたとしても「ほら見たことか!」と自分の正しさを誇示することはできない。「3年とはいかなかったけど、昇進おめでとう」と語りかけ、後輩に大人げない態度をとったことをわびる意味を込めて、相場より多めの祝儀を渡すべきだろう。僕は来たるべき日に備え、コツコツと小銭貯金を始めた。

そんな志ら鈴さんがこの4月1日、ついに二ツ目に昇進することが決まった。数年前から志らく一門の二ツ目昇進基準に長編歌謡浪曲「俵星玄蕃(たわらぼしげんば)」という高難度な課題が追加されたこともあって、志ら鈴さんの前座修行は丸6年に及ぶことになった。心折れずによく頑張ったと本当に思う。

僕はといえば、あれ以来律義に小銭をコツコツため続けたから、先日貯金箱を開けたら着物は買えないにしても、高級な帯を数本買えるくらいの額はたまっていた。それを全て志ら鈴さんにあげようと思っている。

前座は修行期間だから、基本的にはやりたい落語を全力でやることはできない。志ら鈴さんは今、「あれがやりたい」「これもやりたい」と、やりたい落語のことで頭がパンパンに膨れ上がっているに違いない。

4月3日の夜、武蔵野公会堂ホールにて「立川志ら鈴二ツ目昇進披露落語会」が催されます。立川流の今後を担う若手女流落語家の記念すべき第一歩を見にいかれてはいかがでしょうか。希望に満ちあふれた瑞々(みずみず)しい落語が聴けると思います。

立川吉笑
 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。古典落語のほか、軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載する一方、多くのテレビ出演をこなすなど多彩な才能を発揮する。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)

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