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立川談笑、らくご「虎の穴」

女性落語家が面白い 負けてられません 立川吉笑

2019/2/3

夜の寄席を飾るちょうちん(東京都内) 

「落語家さんって何人くらいいるんですか?」とたまに聞かれることがある。東京だけでも600人弱と答えると、決まって「そんなに多いんですか」と驚かれる。確かに東京の落語界に所属している落語家だけで600人と考えたら、多い気がする。そして、この約20分の1にあたる30人弱が女性だ。今回はこの女性落語家について書いてみたい。

昔ながらの古い世界であり、古典落語には男尊女卑と感じる描写もたくさん残っている。遊郭が舞台の廓噺(くるわばなし)など主に男目線で組み立てられたネタだって多い。だから、男性よりずっと少ないのは仕方ない気がする。それでも僕が入門した2010年あたりから、女性落語家がグンと増えてきたという実感もある。

しかも従来の古典落語を女性目線で捉え直したネタや、女性が聴いたら「わかる~!」と圧倒的に共感される新作を得意とする方も出ている。「女性だから」などという言葉は不要で、ただただ落語家として面白い。

落語愛好家の中には「女に落語はできない」みたいな考え方を持っておられる方もいるようだけど、時代は変わったと僕は思っている。面白いと尊敬できる女性落語家が何人もいる。

立川こはるさん(撮影・橘蓮二氏)

僕が所属する落語立川流には3人の女性落語家がいる。

1人目は立川こはる姉さん。立川談春師匠の一番弟子で、若手女流落語家の先頭を走るひとり。小柄でときに線の細い風貌とは反対に、高座はとてもエネルギッシュだ。立川流初の女性落語家であり、色々と困ることもあったと思うけど、持ち前の努力と根性で道を切りひらいてきた。

技術面でも人気でも、正直なところ現状の僕は負けている。僕が演じる八五郎よりも、姉さんが演じる八五郎の方がよっぽどべらんめえ口調で江戸っ子らしい。自分もあんな風に落語を演(や)れたらなぁと思うことが少なくない。めちゃくちゃ後輩の面倒見もいい。昨年に僕が禁酒を始める前は、夜な夜な姉さんにお酒をご馳走(ちそう)になっていた。

2人目は立川だん子さん。立川談四楼師匠の三番弟子で僕の後輩だ。もともとは大手企業で翻訳の仕事をされていたらしい。あるとき落語の面白さに目覚め、会社を辞めて談四楼師匠に弟子入りを志願された。楽しそうに高座を勤める姿は、見ているだけで本当に落語が大好きなんだなぁと伝わってくる。

立川だん子さん

そんなだん子さんの特異な点は年齢だ。公表されていないので本当のところはわからないけど、どうやら僕より一回り近く年上らしい。

年齢じゃなく入門順で序列が決まる落語会では、どれだけ年下でも先に入門した人間が先輩になる。だから僕にとってだん子さんはずいぶん年上の後輩になる。いくら年上だろうと、ましてや女性だろうと、落語界の上下関係は絶対だから僕より多くの荷物をだん子さんは持たなくちゃいけない。そして余程じゃない限り、重そうに荷物を持つだん子さんを僕も手伝ったりしない。前座修行とはそういうものなのだ。

一度こんなことがあった。だん子さんと公民館での落語会を終えた帰りの電車。大きな荷物を持つだん子さんを見かねたのか、大学生らしき青年が「どうぞ座ってください」と席を譲ろうとしてくれた。「席を譲られる前座」を初めて見た僕は、頭の中で勝手に面白がりながらも「せっかくだから座りなよ」と声をかけた。だけど、気配り上手で先輩を立てるだん子さんは「いえ、兄さんが座ってください」。これには困った。

入門した順番で上下関係が決まるからと言っても、それは落語界での話。僕が座ったら青年や周りの乗客はどう思うだろうか。「なにあのおっさん。お母さんにあれだけたくさん荷物を持たせて平気なのか」と思われてしまっている可能性が十分にある。さらに僕が座ったら最低なドラ息子と思われる。当然ながら「いや、だん子さんが座っていいよ」と言ったけど、先輩を立てるだん子さんは「滅相もございません。兄さんが座ってください」の一点張り。「自分が悪者になることで場が収まるなら」と思い、結果20代の青年が譲ってくれた席に30代の僕が座った。降りる駅までの間、周囲の視線が突き刺さる突き刺さる。まさに落語のネタのような展開になってしまった。

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