シューズは厚底か薄底か 日本人ランナーに合うのは?

2019年の箱根駅伝では出場選手の4割がナイキ製だったという(1月2日、東京・大手町)=共同
2019年の箱根駅伝では出場選手の4割がナイキ製だったという(1月2日、東京・大手町)=共同

ランニングを足元から支えるシューズに熱い視線が注がれている。上級者ほどソールが薄くなるという通説を覆す厚底シューズが登場する一方で、長年アスリートたちをサポートしてきた職人は新たな薄底シューズを開発して勝負する。市民ランナーには選択肢が増え、走りの特徴や好みに合わせてシューズを選ぶ楽しみが広がりそうだ。

2018年の長距離界は国内外で記録の更新が相次いだ。9月にキプチョゲ選手(ケニア)が2時間1分39秒の世界記録で走り、10月のシカゴマラソンで大迫傑選手(ナイキ・オレゴンプロジェクト)は2時間5分50秒の日本新記録を樹立して3位に入った。いずれも足元を飾っていたのはナイキの「ズーム ヴェイパーフライ4% フライニット」。いわゆる厚底の最新モデルだった。

ナイキの「ズーム ヴェイパーフライ4% フライニット」=ナイキ提供

大迫選手の前の日本記録保持者である設楽悠太選手(ホンダ)も同シリーズのユーザー。昨年12月の福岡国際を日本人として14年ぶりに制した服部勇馬選手(トヨタ自動車)も18年秋から本格的に履きだした。今月の箱根駅伝でも区間賞を獲得した10選手のうち7人が履き、出場選手の約4割をナイキ製が占めたという。

キプチョゲ選手らの意見を採り入れて開発されたシューズの最大の特徴は、カーボンプレートを特殊な素材で挟んだ3層構造のソールにある。厚さは約4センチ。クッション性と推進力を両立させながら軽さも追求、三拍子をそろえた。以前は薄底を愛用していた設楽が「今はこれがなければ走れない」と語るほどだ。

価格は約2万8千円。値は張るが、大迫選手が市販品を履くこともあって話題になり、品薄状態が続く。

ただ、アスリートでさえ、履きこなすには時間がかかるようで「最初はふわふわしていて地面をつかめない感じがあった」と東海大の関颯人選手。ナイキジャパンの広報担当者は「じゃじゃ馬のようで使いこなせないと最大限威力を発揮できない」と語る。

それでもランナーをとりこにする理由の一つにクッション性に由来する「疲れにくさ」がある。箱根駅伝で7区を走った東海大の阪口竜平選手は「(前足部で接地する)フォアフットはふくらはぎに負担がかかるが、張りが全くなくなり、膝下の故障が少なくなった」。他のメーカーを使用していた頃は靴ひもをきつく締めないとフィットせず、中足骨の疲労骨折につながっていたが、「靴選びの迷いがなくなった」。マラソンで毎回マメができていた服部選手も「(福岡では)一つもできなかった」と語っている。

ニューバランスは現代の名工、三村仁司氏(左)と共同でシューズを開発した
ニューバランスの「HANZO V2」=ニューバランス提供

速さとダメージの軽減という二兎(にと)を求めるゴールは同じでも、ナイキと異なる道をゆくのがニューバランスだ。高橋尚子さんや野口みずきさんらの靴を手掛けた職人、三村仁司氏と共同で「HANZO V2」を開発。神野大地選手(セルソース)らが着用する。

ナイキが新たな厚底を開発するまで、トップランナー向けのシューズの開発競争は「薄さ勝負」の様相を呈していた。地面の反発力を得やすいのが薄底のメリットで、今回の新製品は職人の経験とデータを積み重ねた結晶といえる。

かかと部分のミッドソールは約15ミリ。甲や中足部のフィット感を重視し、指を使って地面をしっかり蹴れる設計だ。「靴は選手の命」と語る三村氏は「路面の力が伝わりやすく、リズムよく走れる」と特長を挙げる。

「外国人と日本人は足の筋力に差がある。足首が硬ければクッションがある方が走りやすいが、私見では日本人の10人に8人は足首が軟らかい。だから(薄底は)日本人ランナーに合う」

はやりの厚底に対する薄底の牙城と見られがちだが、三村氏は「選手が走りやすかったら何でもいい」とも語る。市民ランナーに向けられた言葉でもあるのだろう。履き心地のいいシューズとの出合いを探すのも、ランニングの魅力の一つといえそうだ。

(次ページは市民ランナーへの専門家のアドバイスです)