マイナンバーと預金口座をひも付ける制度は2018年1月に始まった2018年1月にマイナンバーと預金口座をひも付ける「預貯金口座付番制度」が始まってから1年が過ぎた。各銀行は顧客にマイナンバー登録の案内を進めているが、進捗は芳しくない。今はまだ投資信託などの取引に限られているが、将来は預金取引にもマイナンバーが必須になる可能性もある。登録が進まない理由を探った。
1月、記者(33)は東京都内の三菱UFJ銀行の支店を訪ねた。「マイナンバーの登録がお済みでないようです」。住所変更の手続きの途中、行員から口座情報の変更届の用紙を示された。
確かに銀行口座にマイナンバーを登録した覚えはない。用紙に番号を書くとすぐに登録は完了。マイナンバーを登録する理由を行員に尋ねると、「将来的に、預金引き出しなどにも必要になるかもしれません」という説明を受けた。
■便利さ向上がカギ
全国銀行協会のホームページには「ほとんどの取引においてマイナンバーの届け出への協力をお願いする」と書いてある。個人なら預金、投資信託、国際送金、信託取引が例示されていた。
国はマイナンバーを税や社会保険、金融口座などにひも付ける制度を2016年に導入。18年から預金口座とひも付ける「付番」を始めた。利用者が番号を銀行に提供するかはあくまで任意で、罰則はない。
法律上、番号の利用範囲は限られ、銀行は税務署や地方自治体から調査などで照会があった場合に回答する程度だ。預金者には、万が一銀行が破綻しても預貯金を円滑に払い戻せる利点が挙げられるが、身近には感じにくい。国は3年間の状況を見て義務化を議論する方向だが、様々な個人情報が関連づけられることへの利用者の抵抗感は根強い。
三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクの預金口座数は1億超。昨年12月末までに集計できた範囲で番号をひも付けできた口座数は200万口座と、全体の2%程度にすぎない。ダイレクトメールを送ったり、スマートフォンで届け出できるようにしたりするが、登録の進捗は鈍い。
証券口座については16年にマイナンバーの登録が義務付けられ、口座を開設する時などに求められる。18年末まで猶予期間を置いていたが、登録割合は18年6月末時点で41.4%。結局、21年末まで延長されることになった。
野村総合研究所の岩崎千恵上級研究員は「制度の周知と利用者の理解が進まず、金融機関、利用者ともに登録しないことの不利益を認識できていない」と指摘する。
手続きを面倒に感じたり、番号の保管場所を忘れたりして登録をしない口座保有者は多いようだ。顔写真付きで身分確認証としても使えるマイナンバーカードの取得が広がらないことも背景。カード交付枚数は昨年12月1日時点で1564万枚と人口に対する交付率は12%にとどまる。
銀行関係者からは「資産を国に把握されるのではというネガティブな印象を持たれている」「利用者が金融機関に届け出る利点を感じられない」との声も上がる。
岩崎氏は「ペナルティーが法律で明示されれば、登録率は上がる」と強調する。「早期に番号を提供すると何らかのメリットが受けられるような施策もとりうる」と指摘する。
銀行口座では「番号登録をしなくても取引自体への弊害はない」(大手銀行)。誰もが身近な銀行口座でマイナンバーを使い便利な取引ができれば、番号登録は進むかもしれない。
■海外では活用例も
海外の先行事例も参考になる。スウェーデンでは希望者は、自分に関して政府が保有する情報を毎年提供してもらえる。行政データは電子化されており、例えば保有する不動産の情報もダウンロードできる。
KDDI総合研究所の調査リポートによると、エストニアは個人番号カードでほぼ全ての行政サービスを受けられる。カードを日常的に使う国民は3分の2に上るという。
番号を携帯電話に登録する「モバイルID」も幅広く使われている。スマホのアプリ上で個人番号をひも付けるサービスもある。銀行のIDでも認証可能という。
電子行政サービスのウェブサイトにログインすると、金融、税務、不動産、運転免許、ヘルスケアといったメニューが使える。起業も容易で、電子手続きで2時間で起業できるなどビジネスにも生かされている。
(大島有美子)
[日本経済新聞朝刊2019年1月26日付]
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