常盤貴子さん リセットする勇気と自ら磨いた演技力
早いもので、2019年1月期のドラマがスタートして約1ヵ月が過ぎました。最近のドラマの傾向として、弁護士の活躍を描いたものが多いように思います。今期の作品の中でも、放送前から注目を集めたのは常盤貴子さんが17年ぶりに民放連続ドラマへ主演することになった『日曜劇場 グッドワイフ』です。
■「連ドラの女王」は自ら方向転換
常盤さんの「日曜劇場」への主演は、最終回の平均視聴率41.3%を記録した「ビューティフルライフ」(2000年)以来、19年ぶりとなります。常盤さんが演じる主人公も16年ぶりに弁護士へ復帰する主婦という役柄で、常盤さん自身もドラマをPRする番組の中で『(連ドラに久しぶりに挑戦するという意味では)似たような境遇にあると言えるのかもしれません』と語っていました。
常盤さんといえば、かつて主演ドラマが次々にヒット、1990年代には「連ドラの女王」と呼ばれていた時代がありました。96年春から97年夏までの期間は、5作連続でドラマの主演を務め、コメディーからシリアスな役柄までを多様に演じ分け、かつ全てのドラマがヒットしています。まさしく「連ドラの女王」にふさわしい活躍でした。
ですが、ある時期から常盤さんの姿を連続ドラマの世界では見かけなくなりました。
その理由について、常盤さんは3年前のトーク番組の中で、「これ以上連続ドラマを続けると自分はロボットのようになってしまうので、このままのペースでやるんだったら私は事務所を辞めます、と事務所に申し出たんです。(中略)社長に『何をやりたいんだ?』と聞かれたので『映画をやってみたい。レスリー・チャンさんとやってみたい』と打ち明けました」と話しています。
そして、香港の俳優レスリー・チャンとの共演を果たした映画『もういちど逢いたくて 星月童話』(1999年公開)に出演することになったのだそうです。
その後の常盤さんは、主な活動の場をテレビの世界から、映画・舞台へとシフトし、演技の鍛錬を積む道を進んでいきます。その結果として、04年には映画「赤い月」で第28回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞しました。
こうして常盤さんの女優としてのキャリアをたどると、自らの意志で「連ドラの女王」という輝かしい地位を手放し、新たな地位を築いたことがわかります。そして常盤さんのキャリアは、テレビで今一度大きく花開く時を迎えているのです。
どんな仕事でも学び直しが重要
女優というお仕事は、このようにわかりやすい形でキャリアの変遷が見えるものですが、おそらくどの職種や業務においても、日々の仕事に惰性と閉塞感を覚えるタイミングはやってくるものです。
ビジネスの現場においては、このままでは自分自身を消耗するだけになってしまい、何かを得ている実感がない……そう感じてしまう時もあることでしょう。
そうなった時に、常盤さんのように輝かしい立場を一旦捨てて、リセットと自己生成のために新たな鍛錬のために長く時間を費やすことは、かなり勇気のいることです。一般のビジネスパーソンにはなかなかできることではありません。
ただ、今ある業務と並行しながら、新たな目標に向かって、自身の研さんを積むために努力を重ねることはできるのではないでしょうか。
最近では「リカレント教育」という言葉も話題となっています。18年は「リカレント教育」元年と呼ばれ、基礎教育を終えて社会人になった後、あらためて仕事に生かすための学び直しをし、そこで得た知識を改めて仕事に生かすという働き方が提唱されました。
実際、私自身の周りでも、30代~50代のビジネスパーソンが仕事の傍ら改めて大学や大学院に入学し、実務と実践に必要な学びを得るための努力を続けている方々や、今ある業務とは別の分野の資格取得に挑んでいる方などが増えています。
実務を知るからこそ、学びの濃さが違う
それらの方々は「学生時代に学んだ理解と比べ、実務を知っている今だからこそ実感できる学びは、その吸収力に差があり、濃さが違う」と声をそろえておっしゃいます。
常盤さんは、女優として芝居を続けていく上で、テレビドラマだけではない多様な現場を経験し学びを得ながら自身のキャリを積む道を選択しました。常盤さんは「フランス映画祭 2018」の場で「やっぱりお芝居することがすごく好きだなと思うので、それ以外のお仕事もすべてお芝居につなげて考えてしまうところがある。それがなくなってしまうと、どうやって生きていったらいいんだろうって……仕事としてではなくて、お芝居をすることが一番楽しいことなんです」と熱っぽく語っています。
このように常盤さんの軸となっているお芝居を全うする姿勢には一貫性があり、今ドラマでもその役作りは万全のようです。常盤さんは別のドラマで弁護士役が決まった2012年から裁判を傍聴し続け、6年間、東京地裁に通い続けているのだとか。週刊ポスト2月1日号の記事で、東京地裁で常盤さんを見かけたという数多くの目撃情報が明かされています。
常盤さんがずっと裁判所通いを続けているのは「一つの事件でも、見る人の角度によって捉え方が異なるのが面白い。自分にはない新しい視点を発見できる」という理由があるからなのだそうです。台本をただ暗記するといった日々の繰り返しだけでは得ることのできない新しい視点を持つことで、常盤さんは女優としてのキャリアを継続的に磨いているのだと思います。
このような新たな視点の取り込みや、さらには今ある立場や軸となっている業務と並行しながらの学び直しの努力は、きっと様々な立場にあるビジネスパーソンの方でも、チャレンジできるはずです。
前回も触れましたが、今年は亥年。相場格言の「亥固まる」の亥年は、来年の「子(ね)は繁栄」の子年につないでいけるよう、足元をじっくり固めるために時間と労力を費やす過ごし方も、選択肢の一つに加えてよいのかもしれません。
経済キャスター、ファイナンシャル・プランナー。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。テレビ、ラジオ、各種シンポジウムへの出演のほか、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。主な著書に『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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