しかし私は楽観的でもあります。情報に蓋をすることはどんどんと困難になっています。それを素直に見るためのツールも揃っています。後は人々が「ファクト」と向き合う思考を身につければよいだけなのです。
フェイクニュースのまん延などは存在しない
堀 よく話題になる「フェイクニュース」との戦いも、誰かが嘘と真実とを選別してくれることを期待するのではなく、世界中の人々が「ファクト」を見分ける能力を身につけてゆく時代がくるとお考えなのですね。
アンナ ハンスはよく「フェイクニュースのまん延などというものはない。なぜなら歴史上、フェイクニュースが問題でなかった時期などないからだ」と口にしていました(笑)。しかしそれが問題意識として世界中の人々の危機感の中に入ってきたのは、まさに最近のことといっていいでしょう。
フェイクニュースはよくないものと捉えられがちですが、私はそれが『FACTFULNESS』の考え方がまだ十分に社会全体に行き渡っていないことから生じていると、前向きに考えています。それが問題として意識された以上、私たちはやがてファクトに基づいた社会に向かっていけると信じています。なぜならより多くの事実を手にして、より精度の高い予想を立てられる社会が、未来に適応して生き残るでしょうから。
自分の中のバイアスを意識する
堀 本書では冒頭の13の質問について、国別の正答率のグラフも後半に示されています。日本人は世界の将来の子供人口については正確に答えられているのに、世界人口の増加理由についてはチンパンジーを下回る正答率でした。このコントラストはとても面白かったのですが、どうしてこのような結果になったかご存じですか?
アンナ 質問5と6ですね。恐らく、日本人は自らの国を襲っている少子高齢化についてはよく把握していて、その知識を当てはめることで片方は正解しているのですが、その知識を当てはめられないもう片方の問題について、間違ってしまったのでしょう。このように、データに対する理解は自分の現状認識とも強固に結ばれているのです。
A 40億人 B 30億人 C 20億人
質問6 国連の予測によると、2100年にはいまより人口が40億人増えるとされています。人口が増える最も大きな理由は何でしょう?
A 子供(15歳未満)が増えるから
B 大人(15歳から74歳)が増えるから
C 後期高齢者(75歳以上)が増えるから
(『FACTFULNESS』10ページより引用。正解は質問5がC、6がB)
堀 データの見方だけではなく、データを見ている自分自身の偏りも意識しなければ正解にはたどり着けないということなのですね。
研究者・ブロガー。北極における気候変動を研究するかたわら、ライフハック・IT・文具などについて紹介している。著書に『ライフハック大全』など多数。