学生のメリット見えない 大学スポーツ統括組織の謎ドーム社長 安田秀一

それに対し本場米国のNCAAは同じ志を持つ大学の集合体です。アスレチックデパートメント(AD)に所属するすべての運動部は大学が所有し、学校が責任を持って運営するという組織です。しかも、NCAAは学校のトップ(学長)が参画するメンバーシップです。だからこそ積極的に運動部に関与し、学業優先や安全対策、ビジネスへの活用といった課題にも、学校同士の相互理解と連携によって取り組むことが可能になります。

NCAAのコンベンションにもドームとして出席している(1月24日、米フロリダ州)=同社提供

UNIVASは、運動部を正規の活動とする大学、そうなることを目指す大学で構成されるべきです。そうした大学を集めて設立すべきなのに、現状は、「予算を付けるから運動部のある大学はとにかく加盟しなさい」と参加を求めているだけです。なぜか大学だけではなく学生競技連盟(学連)までメンバーに加えています。

「あれ、なんか変だぞ」と思ったのは、ワーキンググループが構成された時に、そこを仕切っていたのが有名コンサルティング会社だった時です。なぜNCAAにも大学にも関係ないコンサルティング会社が入っているのか。彼らにいったいいくら支払っているのか。そんな疑問が湧きました。

そして「これはだめだ」と確信したのは、UNIVASの理事の候補者名簿を見たときです。なぜか広告代理店の社員をはじめとする、現場にも大学にも関係がない人々が名を連ね、肝心な大学の学長や学生生活の現場をよく知る人たちはまるで入っていない。なぜこうなるのか。学生スポーツの健全化とはまるで別の目的のために、組織が動き出していると感じました。

映像配信やデータで稼ぐというが…

スポーツ庁が発表しているUNIVASに関する説明を読むと、競技横断的大学対抗戦の開催、競技映像のインターネット配信、ビッグデータを活用したサービスの開発・提供などが事業として挙げられています。新たな大会や映像配信、データビジネスなどで稼ぐもくろみでしょうが、前述の通り、大学の部活は任意団体です。部に参加している人の所有物です。

競技映像や学生アスリートのデータは肖像権・財産権の一部であり、それを使用する権利はUNIVASにも大学にもありません。UNIVASや大学が勝手にビジネスをしていいわけがないのです。初年度の収入の目標は20億円とのことですが、この収益は誰が上げて、どのように分配されるのか、納税はどうなるのか……。余りに稚拙でツッコミどころが満載です。

現在の学生スポーツの中継は、学生が運動部に所属し、学連に選手登録した時点で、肖像権が学連に帰属するという暗黙のルールなどで成り立っています。これも大きな問題です。例えば、関東学生アメリカンフットボール連盟はこれまで学連がネット中継を独占していました。ところが監督会議などで、「そもそもチーム側に何の権利もないのはおかしい」という声が上がり、チームも試合を中継できることになりました。日大の悪質タックル問題もあり、こうしたルールを監督会議など当事者同士で民主的に決めようという動きも起き始めています。

選手の肖像権は学生競技連盟に帰属している(写真はイメージ)=PIXTA

本来UNIVASが目指す順番としては、まず大学が運動部を正規の活動とすること。学長がリーダーシップを取り、大学同士で連盟を組むこと、そしてその連盟で試合を組むこと。興行権はホームゲームを行う大学が持つこと、収益の配分は当事者である大学同士で決定すること。この設計図と実行プランを作った大学に対して、一時的に補助金を出す。UNIVASはそんな組織であるべきだし、そうであれば大いに応援できたと思います。補助金に使った税金も、投資としてリターンを見込める可能性が出てきます。

僕が客員教授を務める筑波大学では、永田恭介学長が先頭に立って、運動部を正規の活動とする取り組みを進めています。僕も協力させていただいていますが、米国のNCAAについて深く研究し、日本の学生スポーツが抱える問題の本質を最も理解しているのが永田学長であり筑波大です。その筑波大がUNIVASへの参加を疑問視しているそうです。目指すべきものとまったく違う方向に向かっている今の状況では当然だと思います。

学生アスリートは声をあげよう

今回のコラムは1人でも多くの学生アスリートに読んでほしいと思っています。いずれにしてもUNIVASは発足し、動き始めます。ならば、参加する大学の一つ一つが運動部を正規の活動とするように変わっていくしかない。そんな大学が増えて、大学同士でルール作りを進める民主的な仕組みができていけば、政治家や役人の思惑で作られたようにしか思えない組織は、自然に変化したり消滅したりしていくはずです。

個人的には、当事者である学生アスリートたちが、もっと声をあげるべきだと思います。自分たちの環境は勝ち取っていくものです。エネルギーの源泉は知識です。本来、自分たちに帰属すべき権利が何もなく、部費や登録費、遠征費や道具代で家計に負担をかけていること。それに対して、同じ年齢で同じ競技をしている米国の大学スポーツは、部費はおろか道具代も学費も払っていない学生ばかりです。試合になれば、数万人規模の熱狂が生まれ、全米にその名がとどろきます。彼らはどれほど恵まれているのか。その違いはなぜ生まれるのか。

日本でも箱根駅伝のような人気の学生スポーツがあります。関東の大学生たちの課外活動のレースが、大きなビジネス価値を持つイベントになりました。学生ランナーたちから、「肖像権の扱いはどうなっているのか」「このレースの財産権はどこにあり、テレビ局やスポンサー企業がどれだけ収益を上げているのか」「二次使用の収入は誰が得ているのか」「納税はされているのか」。情報の開示を求め、チームへの正当な分配金を要求するのが本来の筋だと思います。

学生に限ったことではないですが、日本のスポーツには封建的で理不尽な約束事がたくさん残っています。自分のやっている競技のルールや取り決めは自分たちで決めていくというアスリートたちが、そろそろ日本にも登場する時代ではないでしょうか。

かくいう僕も、こうした発言をするにはとても勇気が要ります。そして、その勇気は、スポーツが僕に与えてくれた一番の宝物です。日本のスポーツ界でもこうした勇気の連鎖が生まれています。そんなエネルギーにより「真のデモクラシー」が胎動することを願ってやみません。

安田秀一
1969年東京都生まれ。92年法政大文学部卒、三菱商事に入社。96年同社を退社し、ドーム創業。98年に米アンダーアーマーと日本の総代理店契約を結んだ。現在は同社代表取締役。アメリカンフットボールは法政二高時代から始め、キャプテンとして同校を全国ベスト8に導く。大学ではアメフト部主将として常勝の日大に勝利し、大学全日本選抜チームの主将に就く。2016年から18年春まで法政大アメフト部の監督(後に総監督)として同部の改革を指揮した。18年春までスポーツ庁の「日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会」の委員を務めたほか、筑波大の客員教授として同大の運動部改革にも携わっている。

(「SPORTSデモクラシー」は毎月掲載します)

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