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オンライン診療の真の実力 便利さが患者の意識高める 未来を変えるアンメット・メディカル・ニーズ最前線

日経Gooday

2019/3/14

武藤 例えば、高血圧症の患者さんが二人いて、同じ降圧剤を処方されたとします。体格も遺伝子も違うなかで、その薬が同等に効いているということは、考えにくいわけです。また、前日深酒をして酔いが残っている状態で服薬したときと、健康な状態で服薬したときとでも違うはずです。個別化された医療を進めるためには、個々の患者さんの詳細なデータをとることがスタートなのです。

――オンライン診療の仕組みは、まさに新時代の医療を実現するためのインフラであるともいえますね。

武藤 今回、オンライン診療の保険収載が認められたということで、そのスタート地点に立てたことになります。また、オンライン診療と新しい医療の概念を組み合わせたものが、私たちが作り上げた「YaDoc」だったわけです。オンライン診療が患者さんの利便性を高めることも大事ですが、同時に「医療従事者の負担軽減」「患者さんをエンパワーメントすること」「個別化医療の実現」など、継続可能な制度設計につながらなければ、あまり意味がありません。私たちの取り組みがその「発火点」になっているとすれば、非常に大きな意味があると思っています。

■オンライン診療の「効き目」を検証する

――既に発火点から、医療を転換させる大きな「うねり」になっていると感じますね。最近では、糖尿病治療の現場では血糖値を24時間モニタリングする持続血糖測定器なども登場しています。そのデータをオンライン診療に取り込み、医師と患者さんが情報共有すれば、これまで以上に患者さんの行動変容につながる可能性もありますね。これからの動きは速いと思いますよ。

武藤 その動きを加速するために、いま私たちが考えているのは、オンライン診療自体に医学的効果があること、つまり、オンライン診療を導入することによってよりよい医療を実現できるということを、きちんと検証することです。

――どういった検証が行われるのでしょうか。

武藤 ポイントは3つあると思っています。1つはクリニカルアウトカム。臨床的に結果がよかったということです。2つめは経済性で、オンライン診療の費用対効果を検証します。そして、3つめは「満足度」というべきもの。医師にとっては「楽になった」とか「情報が増えた」などがあり、患者さんでは「つらい思いをして通院せずに済んだ」「医師に自分の気持ちをもっと伝えられるようになった」とかがある。「満足度」はクリニカルアウトカムや経済性だけでは評価できない重要な検証項目といえます。

■コンサル会社の経験を生かし、医療界の思考法を変えたい

――武藤さんは循環器内科医として活躍された後、米国に本社を持つコンサルティング会社に勤務されています。どんな理由があったのですか。

武藤医師は、医療界を外から見るために、いったん米国企業のコンサルタントとして勤務したこともある。(写真:的野弘路)

武藤 まず、医師としていろいろな経験を積むなかで、医療の世界にどっぷり使っていると、他のことが見えなくなってしまうと危惧していました。世の中がどんどん変わっていく中で、他の産業から学ぶことがたくさんあるはずですし、医療界のなかで固まってしまった思考法を変革したい。そのためには一度「外」に出る必要があると考えました。それでマッキンゼー・アンド・カンパニーにコンサルタントとして勤務したのです。

最近では医師の方が30代、40代で起業されるケースも増えてきました。医療界の制度疲労とともに、医師自体も疲労困憊(こんぱい)している状況を変えたいと考えている人がたくさんいるようですね。

武藤 そうですね。優秀な人が医療界以外でスキルを学ぶというケースも増えていると思います。これから医療の世界は大きく変わっていくのだと感じます。

■オンライン診療で生涯現役社会の実現に

――ところで、安倍首相は「生涯現役社会」の実現を目標に掲げています。年金支給年齢を引き上げたいという思惑もあるのかもしれませんが、担われる人ではなくて、担う人を増やそうということだと思います。オンライン診療が広まっていくことで、人々の働く期間を増やせるのでしょうか。

武藤 増えていくと思います。経済産業省の会議の委員になっていますが、担い手をどう増やしていくかは、非常に重要な課題であるという議論がなされています。オンライン診療ができることの一つは、生活習慣病に起因する脳血管、心臓疾患で働けなくなることを未然に防ぐ取り組みで、具体的には予防、早期発見、早期治療を実現するものです。これはオンライン診療からオンライン予防に広げる仕組みともいえるでしょう。

――生活習慣病は30代から始まる。だったら早めにアプローチした方がいいのではないかというわけですね。しかし、現状は悪くなってから皆気づく。後悔するわけです。

武藤 医師として、脳梗塞などになってから後悔している本人や家族に対して、もっと早く気づいてあげられればと思います。しかしこれは決して本人だけの問題ではないのです。本人が気づく機会、行動変容を促す機会がないわけで、その機会を提供するような仕組みを作っていきたい。その結果として産業の担い手も増えるわけです。気の長い話になりますが、そこにも寄与できればと思います。

(ライター 荒川直樹)

武藤真祐さん
インテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長。東大病院、三井記念病院、宮内庁侍医、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て、2010年医療法人社団鉄祐会設立。2015年シンガポールでTetsuyu Healthcare Holdings Pte, Ltd.設立。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科臨床教授。日本医療政策機構理事。一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事。東京大学医学部卒業(MD)。 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。INSEAD Executive MBA。Johns Hopkins MPH。
聞き手・企画:藤井省吾
日経BP総研メディカル・ヘルスラボ所長。1989年東京大学農学部卒業、91年東京大学大学院農学系研究科修士了、農学修士。91年日経BP社入社。医療雑誌『日経メディカル』記者、健康雑誌『日経ヘルス』副編集長を経て、2008年~13年まで6年間『日経ヘルス』編集長を務める。14年~18年3月まで、ビズライフ局長・発行人。『日経Gooday』前発行人。18年4月から日経BP社執行役員 日経BP総研副所長マネジメントソリューション局長兼メディカル・ヘルスラボ所長。

[日経Gooday2018年12月12日付記事を再構成]

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