オンライン診療の真の実力 便利さが患者の意識高める未来を変えるアンメット・メディカル・ニーズ最前線

日経Gooday

オンライン診療システムとアプリを開発したインテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長の武藤真祐医師(写真:的野弘路)

武藤 一方で、地域医療の担い手を見ても、医師、看護師、介護従事者の高齢化も進んでいます。医療従事者の方から患者さんの方に出向くことも、今後、難しくなってくる。超高齢社会を迎えるなか、必要とされているのは「患者さんが通院する」「医療従事者が出向く」という2つのことを補完するシステムなのです。

そして3つ目は、アドヒアランス(adherence)の問題です。アドヒアランスとは、患者さんが積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることを意味します。例えば、糖尿病の治療では服薬以上に食事療法、運動療法が重要です。それを患者さんと医療従事者の協働作業でやっていくわけですが、やっぱり人間というのは忘れたり、面倒くさくなったりするし、なかなか決められた通りにはできない。人間の弱さも当然ある。それを支援する新しい仕組みが必要だろうと考えていました。

私自身、従来の診療システムのなかではこの3つの問題をなかなか解決できませんでした。それならばオンライン診療の「オンライン問診」「モニタリング」「オンライン診察」機能を活用して、これまでできていないことを実現したい。私たちは、そういった思いから「YaDoc」の開発に取り組み、現在に至っています。

オンライン問診では、疾患別に用意された質問項目を、患者が画面の説明に従って入力する。
家庭で体重や血圧などを測って患者がデータを入力し、医師と共有する。
診察はテレビ電話のような形で行われる。予約した診察時間になると医師からコールがあり、お互いの顔を見ながら会話ができる。

気づかぬうちに患者の行動を変えるNUDGEがヒント

――なるほど、本質的なことが少し見えてきました。オンライン診療というと一部の報道では「忙しいときでも医師の診断を受けられる」「すぐ薬を処方してもらえる」といった利便性が強調されました。確かに、便利になることはいいことですが、それだけではなく、医師と患者さんとの関係を強化することで、現在の医療が抱えている問題を解決することにつながるのですね。オンライン診療に期待することとして「患者さんの行動変容を促す」がありましたが、そのコツのようなものはありますか。

武藤 行動経済学のアプローチ方法であるNUDGE(ナッジ)という言葉に、そのヒントの一つがあると思っています。これは、人間は決められたことをなかなか守れない弱いものだという前提に立って、行動変容を促す仕組みといえるでしょう。

――NUDGEについて、もう少し詳しく教えてください。

武藤 もともとは「腕で軽くつつく」という意味の英語です。ノーベル経済学賞を受賞された行動経済学者のリチャード・セイラー氏が提唱した概念です。例えば、トイレの便器には小さな虫の絵が描かれたものがあります。無意識にそこにめがけてすることで、トイレが汚れなくなり、清掃の時間が8割減ったという報告があるのです。このように人間本来の性質・感情などに基づいて、気づかぬ間に人間の行動を変えていこうとするのがNUDGEです。「YaDoc」では、そうした手法も使って患者さんの行動変容を促そうと考えています。

オンライン診療は「個別化医療」の実現にもつながる

――情報通信技術(ICT)を使って患者さん自身を変えていく。そのためには、医師は従来以上に患者さんと寄り添うことが必要です。通院と通院の間の患者さんの状況がすぐ医師に伝わったり、患者さんが困ったときにすぐ医師にアクセスできたりすることも重要です。

武藤 その通りです。その結果として、私たちが目指すのは患者さんをエンパワーメントすること。聞き慣れない言葉かもしれませんが、日常の健康管理について、患者さん自身から積極的になってもらうということです。いままでは医師から「きちんと薬を飲んでください」といわれて飲む。もちろん、それでかまわないのですが、日々のデータなどを医師と共有することで、患者さん自身が、どのような行動をしたらもっと健康でいられるかを考える力をつけてもらいたいのです。

そして、こうしたICTの利用による情報の共有は、今後プレシジョンメディシンという個別化医療の実現にもつながると思っています。

――個別化医療とは、具体的にどういうことですか。

ウェルエイジング 健康で豊かな人生のヒント
ウェルエイジング 健康で豊かな人生のヒント