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オンライン診療の真の実力 便利さが患者の意識高める

未来を変えるアンメット・メディカル・ニーズ最前線

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

医療分野の満たされないニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)についての治療分野の革新に焦点を当てていく本連載。今回は、インターネットを通じて医療行為を行う「オンライン診療」がテーマ。2018年から病気の種類や一定の要件を満たせば保険診療ができるようになった。診療システムとアプリを開発したインテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長の武藤真祐医師に、オンライン診療に今後期待される役割を聞いた。便利になるだけではなく、患者自身が自分の健康管理について高い意識を持つようになり、さまざまな病気の予防、早期治療を実現することも可能だという(聞き手・企画:藤井省吾=日経BP総研 メディカル・ヘルスラボ所長)。

◇  ◇  ◇

情報通信技術(ICT)の進歩は医療の世界にも大きな変革をもたらそうとしている。その一つが、インターネットを通じて医療行為を行う「オンライン診療」だ。2018(平成30)年度診療報酬改定により、公的医療保険でオンライン診療が受けられるようになった。オンライン診療は、高血圧症や脂質異常症などの慢性疾患で、定期的に通院している患者の利便性を高めると期待されている。忙しい人が診療所へ行く負担を減らす、介護が必要な人を家族が診療所に連れて行く負担を減らすといった効果が期待されている。

オンライン診療にはさまざまなシステムが登場しているが、武藤医師が開発に関わった「YaDoc(ヤードック)」の機能は「オンライン問診」「モニタリング」「オンライン診察」から構成される。オンライン問診は、疾患別に用意された質問項目を画面の説明に従って入力するもの。モニタリングは、患者が家庭で体重や血圧などを測ってデータを入力し、情報を医師と共有する機能だ。そして、オンライン診察はいわばテレビ電話による診察。予約した診察時間になると医師からコールがあり、電話をとる感覚で診察開始。お互いの顔を見ながら会話ができる。

――武藤さんがオンライン診療の重要性に注目するようになったきっかけについて教えてください。

武藤 オンライン診療に注目するようになった理由は3つあります。まず、私は、循環器専門医として20年間を過ごし、その間に入院、外来、在宅と幅広い立場で患者さんを診てきました。そのなかで感じていたのは外来診療の限界でした。医師は、果たして患者さんの本当の状態をどれほど分かった上で診療できているのかという疑問を感じたのです。

医師と患者さんの新しいコミュニケーション手段に

――確かに、これまでの外来診療では、定期的にきちんと通院される患者さんでも、通院と通院の間の病状や生活習慣について、医師は知る方法がありませんね。

武藤 そのことが問題視されるようになった背景には疾病構造の変化があります。かつての病気は感染症が中心。病原体を明らかにして使用する薬剤を選べばいい。そこには患者さん自身が積極的に治療に関与する必要はありませんでした。

それに対して現在、人々の健康を脅かしているのは、高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病です。生活習慣、社会的要因、遺伝的要因、経済的要因と、さまざまな要因が病状に関わるなか、医師にとって薬の処方以上に大切なことは、患者さん自身に食習慣、運動習慣などの「行動変容」を促すことです。

現在の外来診療がそれに応えているかというとちょっと心もとない。これまでの外来診療では通院と通院の間に患者さんがどのような生活を送っているかはほとんど分かりません。生活改善を指導するなど、患者さんの行動変容を促す努力もしていますが、月に1度の指導で習慣を変えることは難しいでしょう。

――繰り返し、繰り返し指導して、やっと患者さんの行動変容につながる。そのためには、オンライン診療のような医師と患者さんの新しいコミュニケーション手段に対する期待が高まりますね。

超高齢化で通院が難しい時代には新しい仕組みが不可欠

武藤 オンライン診療に注目した2つ目の理由は、患者さん側が抱える問題です。日本の医療は世界的に見ても優れた皆保険制度とフリーアクセスがある一方で、高齢化の問題が深刻化しています。認知症のように、病院に行くことを忘れてしまう、病院に行ったら帰ってこられないといった問題が既に現実のものになっています。やがて、患者さんが外来にきちんと通うことが難しくなる時代がやってくるのです。

武藤 一方で、地域医療の担い手を見ても、医師、看護師、介護従事者の高齢化も進んでいます。医療従事者の方から患者さんの方に出向くことも、今後、難しくなってくる。超高齢社会を迎えるなか、必要とされているのは「患者さんが通院する」「医療従事者が出向く」という2つのことを補完するシステムなのです。

そして3つ目は、アドヒアランス(adherence)の問題です。アドヒアランスとは、患者さんが積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることを意味します。例えば、糖尿病の治療では服薬以上に食事療法、運動療法が重要です。それを患者さんと医療従事者の協働作業でやっていくわけですが、やっぱり人間というのは忘れたり、面倒くさくなったりするし、なかなか決められた通りにはできない。人間の弱さも当然ある。それを支援する新しい仕組みが必要だろうと考えていました。

私自身、従来の診療システムのなかではこの3つの問題をなかなか解決できませんでした。それならばオンライン診療の「オンライン問診」「モニタリング」「オンライン診察」機能を活用して、これまでできていないことを実現したい。私たちは、そういった思いから「YaDoc」の開発に取り組み、現在に至っています。

気づかぬうちに患者の行動を変えるNUDGEがヒント

――なるほど、本質的なことが少し見えてきました。オンライン診療というと一部の報道では「忙しいときでも医師の診断を受けられる」「すぐ薬を処方してもらえる」といった利便性が強調されました。確かに、便利になることはいいことですが、それだけではなく、医師と患者さんとの関係を強化することで、現在の医療が抱えている問題を解決することにつながるのですね。オンライン診療に期待することとして「患者さんの行動変容を促す」がありましたが、そのコツのようなものはありますか。

武藤 行動経済学のアプローチ方法であるNUDGE(ナッジ)という言葉に、そのヒントの一つがあると思っています。これは、人間は決められたことをなかなか守れない弱いものだという前提に立って、行動変容を促す仕組みといえるでしょう。

――NUDGEについて、もう少し詳しく教えてください。

武藤 もともとは「腕で軽くつつく」という意味の英語です。ノーベル経済学賞を受賞された行動経済学者のリチャード・セイラー氏が提唱した概念です。例えば、トイレの便器には小さな虫の絵が描かれたものがあります。無意識にそこにめがけてすることで、トイレが汚れなくなり、清掃の時間が8割減ったという報告があるのです。このように人間本来の性質・感情などに基づいて、気づかぬ間に人間の行動を変えていこうとするのがNUDGEです。「YaDoc」では、そうした手法も使って患者さんの行動変容を促そうと考えています。

オンライン診療は「個別化医療」の実現にもつながる

――情報通信技術(ICT)を使って患者さん自身を変えていく。そのためには、医師は従来以上に患者さんと寄り添うことが必要です。通院と通院の間の患者さんの状況がすぐ医師に伝わったり、患者さんが困ったときにすぐ医師にアクセスできたりすることも重要です。

武藤 その通りです。その結果として、私たちが目指すのは患者さんをエンパワーメントすること。聞き慣れない言葉かもしれませんが、日常の健康管理について、患者さん自身から積極的になってもらうということです。いままでは医師から「きちんと薬を飲んでください」といわれて飲む。もちろん、それでかまわないのですが、日々のデータなどを医師と共有することで、患者さん自身が、どのような行動をしたらもっと健康でいられるかを考える力をつけてもらいたいのです。

そして、こうしたICTの利用による情報の共有は、今後プレシジョンメディシンという個別化医療の実現にもつながると思っています。

――個別化医療とは、具体的にどういうことですか。

武藤 例えば、高血圧症の患者さんが二人いて、同じ降圧剤を処方されたとします。体格も遺伝子も違うなかで、その薬が同等に効いているということは、考えにくいわけです。また、前日深酒をして酔いが残っている状態で服薬したときと、健康な状態で服薬したときとでも違うはずです。個別化された医療を進めるためには、個々の患者さんの詳細なデータをとることがスタートなのです。

――オンライン診療の仕組みは、まさに新時代の医療を実現するためのインフラであるともいえますね。

武藤 今回、オンライン診療の保険収載が認められたということで、そのスタート地点に立てたことになります。また、オンライン診療と新しい医療の概念を組み合わせたものが、私たちが作り上げた「YaDoc」だったわけです。オンライン診療が患者さんの利便性を高めることも大事ですが、同時に「医療従事者の負担軽減」「患者さんをエンパワーメントすること」「個別化医療の実現」など、継続可能な制度設計につながらなければ、あまり意味がありません。私たちの取り組みがその「発火点」になっているとすれば、非常に大きな意味があると思っています。

オンライン診療の「効き目」を検証する

――既に発火点から、医療を転換させる大きな「うねり」になっていると感じますね。最近では、糖尿病治療の現場では血糖値を24時間モニタリングする持続血糖測定器なども登場しています。そのデータをオンライン診療に取り込み、医師と患者さんが情報共有すれば、これまで以上に患者さんの行動変容につながる可能性もありますね。これからの動きは速いと思いますよ。

武藤 その動きを加速するために、いま私たちが考えているのは、オンライン診療自体に医学的効果があること、つまり、オンライン診療を導入することによってよりよい医療を実現できるということを、きちんと検証することです。

――どういった検証が行われるのでしょうか。

武藤 ポイントは3つあると思っています。1つはクリニカルアウトカム。臨床的に結果がよかったということです。2つめは経済性で、オンライン診療の費用対効果を検証します。そして、3つめは「満足度」というべきもの。医師にとっては「楽になった」とか「情報が増えた」などがあり、患者さんでは「つらい思いをして通院せずに済んだ」「医師に自分の気持ちをもっと伝えられるようになった」とかがある。「満足度」はクリニカルアウトカムや経済性だけでは評価できない重要な検証項目といえます。

コンサル会社の経験を生かし、医療界の思考法を変えたい

――武藤さんは循環器内科医として活躍された後、米国に本社を持つコンサルティング会社に勤務されています。どんな理由があったのですか。

武藤 まず、医師としていろいろな経験を積むなかで、医療の世界にどっぷり使っていると、他のことが見えなくなってしまうと危惧していました。世の中がどんどん変わっていく中で、他の産業から学ぶことがたくさんあるはずですし、医療界のなかで固まってしまった思考法を変革したい。そのためには一度「外」に出る必要があると考えました。それでマッキンゼー・アンド・カンパニーにコンサルタントとして勤務したのです。

最近では医師の方が30代、40代で起業されるケースも増えてきました。医療界の制度疲労とともに、医師自体も疲労困憊(こんぱい)している状況を変えたいと考えている人がたくさんいるようですね。

武藤 そうですね。優秀な人が医療界以外でスキルを学ぶというケースも増えていると思います。これから医療の世界は大きく変わっていくのだと感じます。

オンライン診療で生涯現役社会の実現に

――ところで、安倍首相は「生涯現役社会」の実現を目標に掲げています。年金支給年齢を引き上げたいという思惑もあるのかもしれませんが、担われる人ではなくて、担う人を増やそうということだと思います。オンライン診療が広まっていくことで、人々の働く期間を増やせるのでしょうか。

武藤 増えていくと思います。経済産業省の会議の委員になっていますが、担い手をどう増やしていくかは、非常に重要な課題であるという議論がなされています。オンライン診療ができることの一つは、生活習慣病に起因する脳血管、心臓疾患で働けなくなることを未然に防ぐ取り組みで、具体的には予防、早期発見、早期治療を実現するものです。これはオンライン診療からオンライン予防に広げる仕組みともいえるでしょう。

――生活習慣病は30代から始まる。だったら早めにアプローチした方がいいのではないかというわけですね。しかし、現状は悪くなってから皆気づく。後悔するわけです。

武藤 医師として、脳梗塞などになってから後悔している本人や家族に対して、もっと早く気づいてあげられればと思います。しかしこれは決して本人だけの問題ではないのです。本人が気づく機会、行動変容を促す機会がないわけで、その機会を提供するような仕組みを作っていきたい。その結果として産業の担い手も増えるわけです。気の長い話になりますが、そこにも寄与できればと思います。

(ライター 荒川直樹)

武藤真祐さん
インテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長。東大病院、三井記念病院、宮内庁侍医、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て、2010年医療法人社団鉄祐会設立。2015年シンガポールでTetsuyu Healthcare Holdings Pte, Ltd.設立。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科臨床教授。日本医療政策機構理事。一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事。東京大学医学部卒業(MD)。 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。INSEAD Executive MBA。Johns Hopkins MPH。
聞き手・企画:藤井省吾
日経BP総研メディカル・ヘルスラボ所長。1989年東京大学農学部卒業、91年東京大学大学院農学系研究科修士了、農学修士。91年日経BP社入社。医療雑誌『日経メディカル』記者、健康雑誌『日経ヘルス』副編集長を経て、2008年~13年まで6年間『日経ヘルス』編集長を務める。14年~18年3月まで、ビズライフ局長・発行人。『日経Gooday』前発行人。18年4月から日経BP社執行役員 日経BP総研副所長マネジメントソリューション局長兼メディカル・ヘルスラボ所長。

[日経Gooday2018年12月12日付記事を再構成]

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