クルマは芸術 マツダ新アクセラは線でなく面で魅する

土田 セダンに関していうと、インテリア空間は旧型と同等で、トランク容量は逆に広くなっています。全長は伸びているので。

小沢 でもルーフがやけに絞られてるし、リア席なんかは頭上が狭いんじゃないかと。

土田 ハッチバックは確かにリアを若干攻めさせていただきました。ただ、身長180cmの人でもしっかり座れるようになっていて。

小沢 実用性はほぼ旧型並みだと。

新型マツダ3のセダンは全長が伸び、トランク容量が広くなっている

セダンとハッチで全く違うデザイン

土田 デザイン上の最大のポイントはやはり普通はつくるショルダーがないところで、おかげで今までにない傾きがつけられたし、一つの塊のようにも見えます。あとはやっぱりボディーを線ではなく、面で見せたこと。ここが今までのカーデザインとは全く違います。

小沢 いつごろそういう発想が生まれたんですか。

土田 きっかけは15年の東京モーターショーで出した「RXビジョン(RX-VISION)」です。そもそも今のマツダの「魂動(こどう)デザイン」(「クルマに命を与える」というデザインコンセプト)が始まったのが10年で、その後5年間で今出ている車種の姿が大体見えてきました。そこで当時、そろそろ殻を破らないと次に進化できないということで、今回のフェーズ2のきっかけとなる「Zのリフレクション」が生まれたんです。

小沢 Zのリフレクション?

土田 ボディー断面がZ形状になっていて、サイドにきれいに光と影が生まれる造形です。

小沢 確かに両車とも光と影のグラデーションがものすごい。青魚もびっくりの光り具合。

土田 非常に複雑な面のつくり込みをして、ああいう光が出るようにコントロールしているんです。これは人の手じゃなければできません。

小沢 ものすごい職人技なんですね。

土田 普通にプレスラインで見せるカーデザインはどこに置いても同じ形ですよね。でも面で見せるクルマは置いた場所、時間、周りの風景で見え方が変わってきます。今回はずっと見ても飽きない美しさを狙っているんです。

サイドにきれいな光と影を生み出すアクセラの造形。人の手で複雑に面のつくりこみをしているという

小沢 これはモデラーの力も大きいですね。

土田 うちのクレイモデラーやデジタルモデラーが優秀なのはもちろん、普通デザイナーとモデラーだったらデザイナーのほうが上流にいるじゃないですか。でも今のマツダは同格か下手すると逆の場合もあります。共に創る、つまり「共創」と呼んでいますが、それがデザイン内はもちろん、デザイナーとエンジニアの関係にもあるんです。

小沢 今のマツダがなぜ良いクルマをつくれているか分かります。

土田 それから今回のマツダ3はセダンとハッチバックで形が全く違います。普通セダンは、ハッチの後ろにトランクを付けたようなデザインなのに今回はほぼ全取っ換え。

小沢 なぜそんな無駄なことするんですか。

土田 セダンとハッチバックではお客さんが全く違いますから。セダンは服で例えるとスーツですけど、ハッチバックはジャケットとパンツみたいなもの。ボクと小沢さんの服装みたいなもので志向性が全く違う。「この2人は絶対一緒じゃないでしょ!」 というのが発想の原点で、そのためにボンネットを除いて愚直につくり変えました。

セダンとハッチバックで異なるデザインを採用。ボンネットを除いて別のデザインにしたという

小沢 ある意味、みんなが見過ごしている需要に応えているともいえるわけですね。

土田 ひょっとしたら我々は商売が下手なのかもしれません。でも効率一辺倒で我々の市場価値も上げられるとは思えないんです。

小沢 こだわってこそマツダなんだと。

土田 康剛(つちだ・やすたけ)1974年生まれ。98年マツダ入社。「マツダ3」「CX-7」などのリードデザイナーを務める。2015年から新型マツダ 3のチーフデザイナー、17年から「マツダ 魁 CONCEPT」チーフデザイナーを務めている
小沢コージ
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、「ベストカー」「時計Begin」「MonoMax」「夕刊フジ」「週刊プレイボーイ」、不定期で「carview!」「VividCar」などに寄稿。著書に「クルマ界のすごい12人」(新潮新書)「車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本」(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
今こそ始める学び特集