日テレキャスター 生き方が違う人から学ぶ「聞く力」
日本テレビの報道番組「news every.」でキャスターを務める小西美穂さんは、人生の転機で決断に悩んだ時、新しい挑戦に飛び込む時、大きな失敗をした時、うまくいかなくてもがいている時、どんな時でもどんな相手にでも話を聞きにいく。小西さんの「聞く力」はどこからくるのか。じっくり聞いてみた。
――小西さんは以前、「『自分とは違う生き方をしている人たち』から積極的に学ぼうとしている」と話されていました。具体的にはどういう方に、どういう話をお聞きするのでしょうか?
管理職という立場になってから特に目を向けるようになったのは、番組を一緒に作っているワーキングマザーのメンバーです。私には子どもはいませんが、子育てのために働く時間に制約のある仲間の事情を知っておくことは大事だなと思っているんです。
私が出演している「news every.」の解説コーナー「ナゼナニっ?」の制作チームには、リーダー役のデスクをはじめとして、時短勤務を選択している女性が何人もいるんですね。私のコーナーを一緒に作ってくれている仲間が日ごろどんな生活スタイルで仕事に向き合っているのか。お互いに気持ちよくいい仕事をしていくために、できるだけ理解を深めたいなと。だから、当の本人たちに積極的に聞いているんです。
――どんな方法で聞くのでしょうか? ちまたでは、上司と部下の1対1の定期面談を慣習化する組織も増えているようですが。
もちろん面談も効果的だと思いますが、私はどちらかというともっとカジュアルな日常のちょっとした会話から情報を拾うんです。そもそも時間制約のあるメンバーは忙しいので、わざわざ面談の時間をつくるのも大変じゃないですか。
例えば、この間、育休から政治部に復帰したばかりの同僚と、朝の出社時にエレベーターで一緒になったんです。「確かまだ保育園に預けられないから、シッターさんに預けて頑張ると言っていたな」と思い出したので、エレベーターを降りてフロアに到着するまでの間に、様子を聞いてみました。「どう? 大変でしょう。毎日、子どもを預けるための手配をしているんだよね?」と。
エレベーターに乗っている2分間でここまで聞く!
――相手の状況をヒアリングするときには「マイナスの言葉」から、という実践ですね
まさにそうです。すると彼女は案の定、「毎日綱渡り状態です」と返してきました。
「どう綱渡りなの?」「シッターさんを日替わりで手配しているから、予約が完了するまで毎日気が気でなくて」「予約ってどうやってやってんの?」「スマホのアプリで探すんですよ。ほら、こんなふうに登録しているシッターさんがリストアップされるんですけど、人気の人はすぐに埋まってしまうので」「お願いするのにいくらくらいかかるの?」「値段は人によって違うんですけど、1時間1700円とか2300円とか。安い人でも自宅から遠い所から来る方は交通費もかさむので」「それは結構出費がかさむね」「そうなんですよ~」……といった感じで。
――すごく具体的に聞くんですね。シッターさんにかかる料金まで!
経済的な負担については、当人にとっては結構大きいと思いますよ。私は読売テレビから日本テレビに転籍する時に3年ほど契約社員だったので、経済面の不安が仕事のモチベーションと無関係ではないこともなんとなく分かるんです。
ちなみに、これだけの会話で結構な情報が取れていますが、エレベーターを降りてフロア到着まで歩きながら、時間にして1、2分くらいのもの。このやり取りだけで彼女が直面している日々の苦労がだいぶ見えてきました。
――面談という改まった席ではなく、普段の何気ない会話の中でヒアリングするのが小西流なんですね。
そうですね。相手のことを知れるチャンスは日常にたくさん転がっていますよ。
「ナゼナニっ?」チームのデスクの女性も小学生と保育園児を育てているのですが、ある日、いつもより遅めに出社してきた日があり、「お子さん、何かあったん?」と聞いたら、「午前中に面談をこなしてきました」と。「へぇ~、面談って何を言われるの?」「うーん、いろいろアドバイスももらえるんですけど、『もう少しお子さんに愛情をかけてあげてください』って若い保育士さんに言われて凹んだこともあるんですよね」「えー!」みたいな会話を通じて、また、「そういうときに仕事を頑張るのもつらかっただろうなぁ」と彼女の事情を想像するわけです。
するとさらに知りたくなって「オンエア前に急病の呼び出しがあったときはどうやって乗り切ってるの?」と「取材」が進んでいく。
彼女たちは、自分たちからは弱音を吐こうとしないし、職場ではバリッと集中して働いてサッと帰るから、こちらから知ろうとしないと苦労の中身が見えてこない。だから、こちらからできるだけ聞こうと意識しているんです。頑張ろうと思っても頑張れない環境にある人もいるんだと、母を看病した経験から分かりますしね。
うれしいのは、彼女たちが企画した「ママ飲み会」に私も誘ってくれたんですよ。後になって「小西さんをみんなで囲みたくて企画したんですよ!」と言われて驚きましたが、そうやっていろんなライフスタイルの仲間が交じってフランクに情報交換できる雰囲気をつくっていくことが私の役割だと思っていますし、「ワーキングマザーが活躍できるチーム」として社内の模範をつくれたらいいなって。子育てに限らず、これからは介護を抱える社員やスタッフもますます増えるはずですし、男女共に重要なテーマですよね。
一番怖いのは、「分かったつもりになること」
――改めて、小西さんは「人に聞く」ことで得られる学びを大事にされていますね。キャリアの「暗黒時代」を乗り越えた時も、婚活につながる「自分磨き」に励んだ時も、知りたい情報を持つ人を訪ねてインプットする。記者として培った「取材力」を発揮して、視野を広げていらっしゃいます。
一番怖いのは「分かったつもり」になって、学びを止めてしまうこと。私はいつも学びながら成長していけたらいいなと思うし、何より、知らないことを知るという行為が好きで楽しいんです。
自分と似た立場の人だけでなく、いろんな世代や自分と違う経験をしてきた人から積極的に吸収しようとしてきました。
――例えばどんな方からどんな学びを?
そうですね。結婚して間もない頃、「私には家事全般の経験が不足している!」と思った時には、学生時代にやっていたラクロスの後輩のお母さんの「ミッチーさん」の元に泊まりがけで修業に行ったこともあります。
ミッチーさんは、家事一つをとっても、四季を彩る食や草花を取り入れ、毎日を丁寧に暮らしているすてきな方です。家の中にはいつもセンスのいい器や季節の飾りがあり、旬の食材を使ったお料理もとってもお上手でした。
一緒にお買い物に行って食材の選び方を教えてもらい、台所に立って包丁の扱い方を教えてもらい、器やカトラリーのテーブルコーディネートを教えてもらい。「大葉はこういう方向で切ることで無駄なく美しく見えるのよ」といった細かな教え一つひとつが新鮮で面白くて、今の生活にとても役立っています。
関西からロンドン、そして東京……と働く場が変わり、東京でキャスターになったばかりの頃は「東京のこともよく知っておかないと」と、都内のいろんなエリアに出掛けていました。当時話題になっていた秋葉原のメイド喫茶にも行ってみました。仕事でなかなか成果を上げられなかった「暗黒時代」には、自分に足りないものをゼロから学ぶ気で、日テレ学院の講座に通い、「しゃべり」の基礎を勉強しました。
こうやって振り返ってみると、私は自分の置かれる立場や環境が変わったときには特に積極的に学びに出掛けようとしているのかもしれませんね。
そして、学びが役に立ったときには感謝を伝えるのも大事。「あの時教えてもらったことが、こんなふうに役立ってます」と、どう生かしたかまで具体的に伝えるようにしています。感謝をフィードバックすることが、ご縁を大切に長持ちさせるコツかなと思っています。
(ライター 宮本恵理子、写真 稲垣純也)
日本テレビ解説委員・キャスター。1969年生まれ。読売テレビに入社し、大阪で社会部記者を経験後、2001年からロンドン特派員に。帰国後、政治部記者を経て日本テレビ入社。BS日テレ「深層NEWS」ではメインキャスターを約3年半務め、現在は報道番組「news every.」でニュースを分かりやすく解説。関西出身の親しみやすい人柄で支持を集める。新著の「小西美穂の七転び八起き」(日経BP社)では、自身の仕事とプライベートの転機、キャリアの行き詰まりからの脱出法などをリアルに書き、多くの働く女性から大きな共感を呼んでいる。インスタアカウントはmihokonishi69
[nikkei WOMAN Online 2018年11月6日付記事を再構成]
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