ドラン氏とツアーガイドのイアン・ベネット氏は、清津(チョンジン)市に短時間停車した際、運よく機関庫に入っていた本物の蒸気機関車に遭遇した。「世界でも残り少ない今も現役で活躍する蒸気機関車です」
国際車両に乗っていた外国人旅行客は、北朝鮮人と完全に切り離される。「客室のなかに閉じ込められて、地元の人との接触はほとんどありませんでした」と、クラーク氏。
羅先に到着すると、車内で検査があった。「市民が無許可で乗車していないか調べるためです。私たちのパスポートも調べられました。数人の乗客が列車から降ろされていましたが、私たちのグループは全員無事でした。警備員たちも、厳しい態度を取って外交問題にでもなったら大変だと思っていたのでしょう。私たちより彼らの方が明らかに緊張していましたね」
いったん列車を降りると、意外にも自由行動が少しばかり認められた。羅先は、羅津(ラジン)と先鋒(ソンボン)というふたつの町を合併させてつくった経済特区だ(両方の町の最初の1文字をとって「羅先」と名付けられた)。中国の吉林省とロシアの沿海地方ハサンスキー地区に近く、中国やロシアは、気候が穏やかで冬でも凍らないこの地の港を昔から利用してきたため、地元の人々は外国人に慣れている。
中国人向けカジノもあるが、ギャンブルは北朝鮮人には禁じられている。北朝鮮で唯一外国人に開放されている市場も、羅先にある。また、漁業が1990年代初めに実験的産業として開発されるはずだったが、他のあらゆるものと同様、地政学的緊張が続いたおかげで停滞したままだ。
いずれにしても、列車の長旅から解放されたツアー客はしばしの間、監視なしで自由に歩き、地元住人とも交流した。
こうした列車の旅が、今後、いつまで続くのかは分からない。
韓国の聯合(れんごう)ニュースによると、韓国の文在寅大統領は2019年末までに北朝鮮行きの鉄道路線を2本開通させたい考えだという。経済制裁が続く限り実現は難しそうだが、南北両国の国民が同じ列車に乗って交流する日がいつか来るかもしれない。現実の世界ではいろいろあっても、列車の旅はどこかホッとする和やかな気分にしてくれることだけは間違いない。
次ページでも、モンテレオーネ氏が撮影した貴重な写真で、北朝鮮の列車旅を感じてみてほしい。