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千葉・西船橋でさく裂 「小松菜ハイボール」パワー

探訪!ご当地ブランド(1)

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NIKKEI STYLE

それは鮮烈な出合いだった。2018年末、食べ物名所を巡る知人との定例の飲み会で、千葉県船橋市西船橋地区の居酒屋に赴いた時のこと。目の前に現れたのが、黄色いレモンがジョッキの縁に乗った緑色のハイボールだ。「これが西船でイチ押しの小松菜ハイボールです」。船橋をよく知る女性が解説してくれた。「正しい飲み方はね、レモンを絞って、そのまま一気に沈めちゃうの」

一見、青汁そのもの。苦いだろうな、と覚悟してグラスに口を付けると、意外にもほんのりとした甘さと酸味、野菜ジュースのような爽快さがウイスキーと混じり合い、いくらでも飲める気がしてくる。のどごしもいい。「おっ、なかなかいけますね!」と私。向かいの席でゴクリと飲んだテレビアナウンサーの口の周りには、「くまモン」の唇のような緑色の輪が付いている。お互い、笑いながら追加注文した。

なぜ西船橋で「小松菜ハイボール」なのか。その秘密に迫り、西船橋のコマツナが地域ブランドとして弾けた光景をリポートしよう。

コマツナの名の由来は有名だ。徳川八代将軍・吉宗がタカ狩りに小松川村(現・東京都江戸川区小松川)で休息した際、そこで食べた青菜が気に入り、コマツナと命名されたと言われる。スーパーなどの店頭には通年で並ぶが、本来、俳句では冬の季語である。

江戸川を挟んで、小松川の東側に位置する船橋市。人口は現在、約63万5000人と政令市並みだ。全国に54ある中核市の中ではトップ、都道府県人口ランキングの最下位・鳥取県を上回る。中でも西船橋はJR総武線、武蔵野線、地下鉄東西線など5路線が乗り入れており、乗降客数は千葉県内で1、2位を争う。

悩みは「千葉都民」という言葉があるように、圧倒的に東京へ通う住民が多いこと。典型的な「ベッドタウン」で、寝るためだけ、休日だけを地元で過ごす住民が多い。人口は増えても、住民は街に魅力を感じているのか? そんな危機感から「コマツナで街を元気にしよう!」と立ち上ったのが、西船橋のコマツナ生産者と飲食店主らだった。

生産者のリーダー格が、農家の6代目、平野代一(しろかず)さんだ。根っからの船橋っ子。高校時代は国体の成年男子65キロ級フリースタイルで優勝し、日本体育大学レスリング部に進んだ。船橋市在住の女子プロレスラー、長与千種さんとも親交が深い。

平野さんは語る。「以前、江戸川区の小松川と西船橋の間で花嫁を『縁組』する慣行があり、私の祖母の姉妹も江戸川区へ嫁入りし、コマツナに関する情報交流がありました。戦時中は江戸川区から疎開者も来て、西船橋でコマツナ栽培が盛んになったようです」

高度経済成長と東京一極集中で、一気に宅地化が進んだ。「子供の頃はダイコン、ネギ、ニンジン、各種葉物の畑が一面に広がり、東京タワーが見えた」という船橋も、農地面積が狭まり、新興住宅地に変貌する。狭い土地で複数の農産物を作っても、収入は知れたもの。そこで「西船橋ひらの農園」では1982年、平野さんがコマツナに特化することにした。現在8カ所ある畑は合計2ヘクタールほど。「コマツナは露地栽培やハウス栽培で年7~8回は収穫が可能。種や減農薬農法などの研究に専念して安全・安心を売り物にすればブランド化できる」と考えた。

1994年には市内のコマツナ農家と組んで「葉物共販組合」を結成し、東京・大田区の東京青果市場への出荷に乗り出す。しかし、埼玉、茨城など近隣県からの大量出荷が始まると値崩れが起き、さらにブランド力を磨く必要があった。2006年以降は「地産地消」「食育」にも注力する一方、生産者全員が「エコファーマー」(減農薬、低化学肥料などに取り組む環境に優しい農家)の認証を取得。船橋ブランドのコマツナの座を見事に確立した。

話をハイボールに戻そう。「小松菜ハイボール」の完成披露は2012年2月。デビューには面白いエピソードがある。

JR西船橋駅近くの居酒屋「フナバシ屋」では連日、夜の作戦会議が開かれた。メンバーは、平野さん、フナバシ屋の店長、そして友人ら。店のメニューには既に「小松菜ハイボール」と記載したものの、味はまだ試行錯誤が続いていた。塩を入れた熱湯でゆでたコマツナの葉をミキサーでかくはんしてピューレ状にする。問題は、いかにヘルシー志向で珍しいもの好きの女性向けのハイボールにするかだ。

「我々は奥で飲みながら、若い女性客にそっとプレゼントする形で試飲してもらいました。いい歳をしたオヤジのナンパと思われたのでは?」と平野さんは笑う。だが、女性たちは「これ、すごい緑色!」「甘すぎるんじゃない」と率直な感想を聞かせてくれた。当初はコマツナベースのリンゴ味としたが、「甘味を抑えたかんきつ系のグレープフルーツ風味がいい」との声が女性客から上がり、路線を変えた。

よし、これで完成だ、と地元の記者クラブにプレスリリースを持ち込むと、記者は忙しそうに机に向かったまま。そこでフナバシ屋を運営する飲食店チェーン、山商(船橋市)の山本圭一専務が突然、「今夜5時からフナバシ屋で試飲会をやります!」と大声を出すと、大半の記者が振り向いた。試飲会には記者が三々五々集まり、あれこれ批評しつつも、続々と記事になった。「お客さんや記者さんらとのコラボの産物が今の小松菜ハイボール。人と街と畑がつながったんです」と平野さん。目下、小松菜ハイボールが飲める店は市内に20軒以上あるそうだ。

西船橋のコマツナが紡ぎ出す物語は、ハイボールだけではない。平野さんの肩書の中で目を引くのが「船橋小松菜パウダー会会長」。ハイボールと並行して、応用範囲が広いパウダーの開発も進んでいた。

平野さんの自宅近くの駐車場。近所にコンビニもない寂しげな一角に毎週水曜と金曜の2回、宅配便のトラックを改造したピザのキッチンカー「クッチーナ セッテ」がやって来る。営業時間は午前10時~午後8時。土日と祝日は、船橋市の観光名所「アンデルセン公園」での営業だ。有名外食店チェーンの店長やマネジャーも務めた宇田川隆さんが、2014年4月から1人でやっている。

十数種類あるピザのメニューのうち、目玉の1つが「小松菜ピザ」。小松菜パウダーを練り込んだ緑色のピザ生地の上にニンニクやベーコン、マッシュルーム、コマツナなどのトッピングを乗せ、特注の窯で1枚3~5分ほどで焼き上げる。「ピザ生地の3%くらいの小松菜パウダーを混ぜて練り上げるとつなぎもよく、きれいなグリーンに染まります」(宇田川さん)。話を聞くうちに、夕食用のピザを買いに来た常連客の行列が出来ていた。

京成船橋駅から徒歩5分の手作りパン専門店「リトル・ブレッズ・トゥ・ゴー」。2003年にパン職人の小宮義和さんが開業したこの店は、ラーメン店のラー油、中華料理店のエビチリなど、パンには珍しい食材を使った創作品が多く、都内からも客が訪れる。とりわけコマツナ系のパンは昼頃には売り切れてしまう。「お子さんに野菜を食べさせたいお客さんが多いですね」(小宮山さん)。

「コマツナロール」、パンに厚切りベーコン、チーズを挟んだ「小松菜ベーコン」、パンとハンバーグ、チーズ、ペースト状のパクチーを合体させた「パクチーバーガー」、中に黒豆とクリームチーズが入った「小松菜黒豆」など、いずれも好奇心をそそられる逸品だった。

ふんだんにコマツナを使ったラーメン店を6店舗展開するのが、まるは商事(千葉県市原市)。京成線船橋駅近くの「三代目らーめん処 まるは極」(客席数38)では1日のラーメン販売数が500~800食と、業界通なら驚くほどの繁盛店だ。コマツナの使用量も半端ではない。1日4ケース(1ケース=30束)分を使うという。

「地産地消にこだわり、千葉県産銘柄地鶏の錦爽(きんそう)鶏を10時間煮込んだコラーゲンたっぷりの『鶏白湯(パイタン)らーめん』が人気で、トッピングも船橋の三番瀬のノリや西船橋のコマツナなどを使っています」と小松洋平エリア長兼店長。サイドメニューには、飲酒客向けにコマツナのお浸しもある。ホウレンソウでなくコマツナを使ったのは、「一つ上のぜいたく感があるし、濃厚なスープを味わった時の罪滅ぼし気分ですね」。

コマツナを麺生地に使った焼きそば、シューマイ、生春巻き、ナンプラーいため、ケーキなど、コマツナ料理は燎(りょう)原の火のように広がってきた。きっかけは小松菜ハイボールのデビューに先立って、官民一体で始めた「こまつなう」と呼ぶイベントだ。語呂合わせで決めた「小松菜の日」(5月27日)の周辺期間に、船橋産のコマツナメニューを食べ歩く趣向である。

2018年9月には、船橋市在住の小説家、森沢明夫さんが地元を舞台に書いた「きらきら眼鏡」が映画化された。原作には、前出の山商が経営する居酒屋「一九」の小松菜ハイボールが登場する。

毎月、フナバシ屋で開かれるのが「小松菜ハイボールを飲もうの貝」。船橋名物の1つに、ハマグリに似た外来種の大ぶりな二枚貝「ホンビノス貝」があるが、それらをさかなに小松菜ハイボールを飲む同志たちの異業種交流会である。地産地消の地域愛は、熱く燃えているようだ。

(ジャーナリスト 嶋沢裕志)

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