日本文化と丸ごとコラボ 東京コレクションに新潮流
春秋の年2回、日本発ファッションを世界に発表する東京コレクション(東コレ)が映画、音楽、デザイン、建築、アニメなど他文化と連携するコラボイベントに力を入れている。親和性の高い分野と複合することで間口を広げ、若者の関心や共感をつかむのが狙いだ。背景には若者のファッション離れや長引くアパレル不況の影響がある。
他分野とのコラボ、世界的動きに
昨年10月26日、東京国際映画祭で初のファッションショーが開催された。会場となった六本木ヒルズアリーナ(東京・港)に敷かれたレッドカーペットの上を、秋冬の新作モードを身に着けたモデルのマギーさんや俳優の小関裕太さん、ラッパーのIOさんらが闊歩(かっぽ)。集まった数百人の観衆をひき付けた。
企画したのは東コレを主催する日本ファッション・ウィーク(JFW)推進機構。セレクトショップ「ビームス」やファッション雑誌「GQ JAPAN」、経済産業省なども協力した。「映画もファッションもともに日本文化を世界にアピールできる有力コンテンツ。コラボすれば大きな相乗効果が期待できる」(JFW推進機構)とみる。
同映画祭ではファッションショーのほか、リリー・フランキーさんらがファッションや映画などについて語るトークショーも開催。「映画もファッションも大好き。コラボは初めての試みなのでイベントの雰囲気がさらに華やかになった」(30代女性)。東京国際映画祭事務局は「ファッションが好きな層にも映画の魅力を効果的にPRできた」という。
コラボの相手は映画だけではない。昨年10月15.16日には東京・渋谷のスペイン坂にあるライブスペースで音楽・映像とファッションを組み合わせた初のイベント「FUZZNATION」も開いた。
シンガーソングライターのiriさんや映像ディレクターのYudai Maruyamaさんがコラボ映像を制作。さらにストリートブランド「F-LAGSTUF-F」と連携したファッションイベントも実施した。コラボ映像は音楽専門チャンネルでも放映された。
「カリスマ性のある歌手は自分の世界観を体現するファッションリーダーでもある。映画と同様、音楽もファッションと親和性が高い」と「GQ JAPAN」編集長の鈴木正文さんは指摘する。
背景にはアパレル不況
日本の音楽ユニット「m-flo」のラッパー、VERBALさんは宝飾・衣料ブランド「AMBUSH(R)」のデザイナーとしても活躍する。海外に目を向ければ、米グラミー賞の常連で、カリスマ的人気の歌手カニエ・ウェストさんやファレル・ウィリアムスさんらも独自の衣料ブランドを手がける。音楽とファッションの垣根を越えたコラボは、今や世界的な潮流になっているのだ。
デザイン、アート、アニメとのコラボも活発だ。東コレは一昨年から工業デザイナーやインテリアデザイナー、建築家らと共同イベントを開始。アニメやゲームソフトのキャラクター「ポケットモンスター」をモチーフにしたファッション用品を扱う限定ショップも展開している。
こうした動きの背景には深刻なアパレル不況がある。
総務省の家計調査によると、2人以上世帯(農林漁家世帯を除く)の被服及び履物の消費支出はバブル経済末期の1991年の30万2328円をピークに減り続け、2017年は13万8281円と半分以下。若者の関心は安価なファストファッションや古着に向かい、新作を披露するファッションショーは大きな流行をなかなか生み出しにくい状況にある。
「文化現象はファッションや映画、音楽、デザインなど分野別ではなく、垣根を越えたひとつの大きなうねりとして捉えるべきだ。互いに刺激になるし、話題作りにもなる。市場拡大のほか、人材育成面でも恩恵が大きい」と伊藤忠ファッションシステム(東京・港)の担当者はみる。
かつて東コレはパリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンとともに「世界5大コレクション」と呼ばれたが、今ではBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)や東南アジア、トルコなど新興国の追い上げで立場を脅かされている。活力を取り戻すため、さらにグルメや観光、演劇などとのコラボも増えそうだ。
(編集委員 小林明)
[日本経済新聞夕刊2019年1月19日付]
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