SF・ミステリーに熱中、国際社会を読み解く助けに
国際通貨研究所 渡辺博史理事長
渡辺博史氏と座右の書・愛読書
わたなべ・ひろし 1949年生まれ。東京大法卒、米ブラウン大経済学修士。旧大蔵省では主税畑を歩み、2004年財務官。国際協力銀行総裁を経て16年から現職。
父は日銀マンでしたが、幼いころから読書に親しむきっかけになったのは、専業主婦の母がそろえていた昭和文学全集です。刺激の強い小説も含まれ制限はかかっていましたが、そういう本からつまみ読みしていました。
小学校の図書館では「アルセーヌ・ルパン」や「シャーロック・ホームズ」「怪人二十面相」など定番シリーズを片っ端から読破しました。興味をもった作家の著作はすべて読む、という厄介なクセはこのころからです。
中学生のときに読んで印象に残るのが友人が教えてくれた『虚無への供物』。まさに奇書です。大いに刺激を受けてこの友人と共作で推理小説を自筆してみたのですが、うまくいきません。「俺たちにはクリエーティビティーがないな」という結論に至りました。案の定というべきか、私は役人になり彼は新聞記者の道に進みました。
最初に英語で読んだのが『アルジャーノンに花束を』。映画やテレビドラマとしても知られていますが、知的障害者の主人公が発する"言葉"の変遷が大切です。あえて原書で読むよう勧めてくれた教授に感謝しています。
今の学生に推薦しているのは『一九八四年』。私が初めて手に取ったのは1972年ですから、まさに近未来小説だったのですが、行き過ぎた情報化社会の帰結が描かれ、むしろこれから先を予言している感があります。