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大阪は「大阪的」ではない! メディアが生んだ虚像 『大阪的 「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた』

2019/1/31

大阪と聞いてあなたは何を思い浮かべるだろうか。アンチ巨人の熱狂的阪神ファン、芸能人顔負けのおばちゃん、ドケチでがめつい商売人……。しかし、これらのイメージは本当に「大阪的」と呼べるものなのだろうか。本書『大阪的』は、世に流布する大阪論の誤りを正し、紋切り型の大阪像がつくられる過程に光を当ててゆく。著者は、『京都ぎらい』の著書で知られる国際日本文化研究センター教授。

■「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた

かつて関西人は、阪神より巨人を応援していた。1960年代の民放は、巨人戦以外の中継をほとんどしていなかったためだ。サンテレビが阪神戦を放映し始めてから、関西人はようやく地元の阪神に目を向けるようになった。つまり、テレビが関西人の野球観を変えたのである。

大阪は、「おもろいおばはん」ばかりだというイメージも同様だ。大阪のテレビ局は番組制作の予算が少ないため、ギャラのいらない一般人に依存せざるを得なかった。1983年から93年までテレビ大阪で「まいどワイド30分」という番組が放送されていたのだが、路上取材で出会った大阪の主婦たちの中から、「おもろいおばはん」ばかりを抜き出して連日放送した。大阪の人々が面白いと広く認識されだした原因はテレビの放映ぶりにあるのだ。

■「大阪的」をもう一度考え直すべきでは?

1960年代までは大阪を舞台に話が展開される、大阪制作のテレビドラマが全国でよく放映されており、大阪商人のドケチな一面を描いた『どてらい男』等のドラマが人気だった。大阪人がドケチというイメージももともとのものではなく、テレビが植え付けたものなのだ。

大阪にもこんな逸話がある。1975年、大阪フィルハーモニー交響楽団は初めてのヨーロッパ公演を成し遂げた。当時は石油ショックの真っただ中であり、当初スポンサーたちは彼らの渡欧に難色を示したが、市井の音楽愛好家が義援金集めに立ち上がった。その熱意に押されて大阪の財界も動き、大フィルは無事旅立った。

さらに、著者はこんな見方も示している。戦前、工業都市へと変貌した大阪に全国から集まった労働者が新しい庶民文化を形成した。そこでは彼らのやや品の悪い部分ばかりが強調され、それが常とう的な大阪人論として流布された。一方で、大阪のブルジョワたちは工業化ゆえのばい煙を避け、六甲山系の麓に住み始める。そこにブルジョワ文化の上澄みが移動した。戦前を代表する天才音楽家・貴志康一も浜芦屋の別荘で暮らしていたという。著者は、このような阪神間の文化が世間ではあまり顧みられないことを憂えている。

大阪の知られざる素顔に驚くとともに、ステレオタイプな「大阪的」を生んだマスメディアの影響力について改めて考えさせられる1冊だ。

今回の評者=山田周平
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームの一員。埼玉県出身。早大卒。

大阪的 「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた (幻冬舎新書)

著者 : 井上 章一
出版 : 幻冬舎
価格 : 864円 (税込み)

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