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睡眠

働き盛りだからこそできる認知症予防 睡眠を侮るな

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/1/29

ナショナルジオグラフィック日本版

写真はイメージ=PIXTA

この連載で何度か取り上げたように、睡眠不足や不眠は代表的な認知症であるアルツハイマー病の罹患(りかん)リスクを高めるという調査結果が繰り返し報告されている。今回は、アルツハイマー病の予防に睡眠がどう影響するのかを説明したい。

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質のよい睡眠をとり、睡眠不足を解消することは生活習慣病やうつ病の治療や予防にも役立つことが実証されている。そのため、「思い立ったが吉日ですね、頑張ってください!」とエールを送るのだが、こと認知症予防の観点では、リタイア後からの取り組みでは残念ながら「後の祭り」である可能性が高い。

睡眠不足や不眠が認知症のリスクを高めるメカニズムについては、「認知症患者の睡眠障害への対処法を考える」や「睡眠不足に注意! 脳の老廃物掃除は夜勤体制」で詳しくご紹介した。アルツハイマー病ではアミロイドβというタンパク質が脳内で過剰に蓄積することが病因に深く関わっているのだが、そのアミロイドβを脳内から排せつするシステム(グリンパティックシステム)は主に睡眠中に活発に作動していることが明らかになったのである。

では、最近物忘れが気になりだした人が、少しでもアミロイドβが蓄積しないように快眠法に励んだとして果たして効果はあるのだろうか。残念ながらその効果を実証した研究はない。というのも非常に手間がかかる研究だからである。

質がよく十分な睡眠をとることが認知症の予防効果を発揮するか確かめるには、睡眠問題のある高齢者を多数リクルートして2群に分け、片方のグループではこれまで通りの睡眠習慣で、もう片方のグループでは睡眠改善のための指導を受けてもらい、認知症の発症頻度に違いがでるか何年にもわたって観察するようなコホート研究(前向き観察研究)を行う必要がある。この種の研究には膨大な人的資源や資金がかかり、おいそれと実施できるものではない。

とはいえ、いくら人員や予算があっても私であればこのような研究は行わない。なぜなら先にも書いたように高齢になって思い立ったときにはすでに手遅れである可能性が高いからである。それを確信させる研究がアルツハイマー病の新薬開発の現場で次々と発表されている。

脳内のアミロイドβの量はポジトロン・エミッション・トモグラフィー(PET)検査などの画像診断法の進歩により正確に定量できるようになった。そのおかげで、アルツハイマー病の診断精度や薬効評価は格段に向上している。これはアミロイドβの蓄積を抑える作用を持ったアルツハイマー病治療薬の開発にとって大きな利点になっているはずなのだが、最近まで行われた大規模な臨床試験(治験)のほとんどは惨敗し、新薬開発は遅々として進んでいない。

失敗の原因についてはさまざま論議されているが、「認知症の症状がしっかり出てからでは手遅れ」だというのが多くの研究者に共通した意見である。さらにはごく軽度の症状しかない認知症の前段階ですら手遅れだと主張する研究者も少なくない。一体どういうことだろうか。

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