これぞ折り紙付き 精巧すぎるハサミムシの翅の格納術
ハサミムシを知っているだろうか? 英語で「イヤーウィッグ(耳の虫)」というように、英語圏では「居場所を求めて人の耳の中に入る」と言われる。しかし、それは俗説だ。むしろ注目したいのは、その翅(はね)だ。揺らめくように光り輝き美しい。しかも、翅は格納時の10倍かそれ以上の大きさにまで広がるのだ。実際に映像で見てほしい。
米パデュー大学で機械工学の助教を務めるアンドレス・アリエタ氏らの研究チームが、18年、ハサミムシの翅の機能についての論文を学術誌「サイエンス」に発表した。研究チームは伝統的な折り紙の畳み方を使い、翅を展開する仕組みのモデルを作成しようとしたが、うまくいかなかった。ハサミムシの翅は、紙などの典型的な素材のように、直線的な折り方では畳まれていないのだ。
アリエタ氏らのチームが見出したのは、むしろ折り目にばねのような働きがあるために、翅が閉じても開いても、その形がしっかりと保たれていることだった。アリエタ氏はこれを、手首に巻きつけても板状に伸ばしても、その形がしっかり保たれるスラップブレスレットに例える。
ドイツ、デュースブルク・エッセン大学の研究者で、このテーマの論文を発表したことがあるユリア・ダイタース氏は、折り目が直線ではなく曲がっていることも、翅が安定する理由だと話す。こうした構造によってうまく力が調整され、翅が完全に開いているか閉じているかした場合に「ロックがかかる」ことが可能になるのだという。
ダイタース氏は、ハサミムシの翅を初めて目にしたとき、これを研究しなければと強く思ったと話す。「見事な翅ですからね」
ハサミムシの翅はほとんどの種でよく似ているが、そう頻繁に翅を使わない。ハサミムシが飛ぶ真の目的、そして飛行を促す条件はまだ謎のままだ。
アリエタ氏らは、翅のメカニズムに関する今回の知見を使い、それをまねた道具を作り出せると期待している。「ハサミムシの翅は、同じような器具を作るためのレシピを与えてくれました」とアリエタ氏は話す。そうした器具ができれば非常に価値のあるツールとなり、素早く組み立てられるテント、持ち運び可能なソーラーパネル、小型の電子機器などに応用できるかもしれない。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2018年10月22日付記事を再構成]
詳しい記事はこちら
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。