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2020年から見える未来

客室で車いすクルリ 京王プラザ、1センチ刻みの進化

2019/1/29 日本経済新聞 朝刊

バリアフリー専用設備を着脱式にし、通常の部屋としても使えるようにしている(京王プラザホテルのユニバーサルルーム)

2020年の東京パラリンピックをにらみ、首都圏のホテルがバリアフリーの拡充に動き出した。車いすに乗る人など障害者に使いやすければ、市場は高齢者や乳幼児にも大きく広がる。バリアフリーは企業の社会貢献から、競争力向上のツールに変わろうとしている。

「電動カーテンのボタンがベッドサイドのちょうどいい高さに付いている。これなら開け閉めがラクだ」。18年12月15日、東京・西新宿にある京王プラザホテルの客室では、車いすの7人の障害者の口から次々と感心する声が漏れた。同行した日本介助犬協会の水上言氏は「部屋の中の配置が、肢体不自由者の実情を踏まえてよく考えられている」と指摘する。

京王プラザホテルが設計したデラックスツインの平面図。車いすが転回しやすいように直径1.5mのスペースを確保している(同ホテル提供)
テレビを壁に埋め込んだデラックスツイン(平面図とは左右が逆になっている)

一行が宿泊したのはユニバーサルデザインの部屋。車いすでも利用しやすいよう段差をなくしただけでなく、電動で背中が起き上がる高級ベッドを備え、快適性をより高めた。同年12月には従来の10部屋に加え、2部屋の壁をぶち抜いて広さ47平方メートルを確保したラグジュアリータイプを追加した。

「設計、施工の業者とはかんかんがくがくの議論をした」。中村さおり客室支配人が振り返るように、ドア幅や車いすの転回スペースなど1センチ単位で設計を何度も見直した。車いすを回転させるとき邪魔にならないよう、壁を19センチも削ってテレビを埋め込んだ。

細部までこだわるのは、30年の蓄積があるから。同ホテルのバリアフリーの取り組みは1988年のリハビリテーション世界会議の会場に選ばれ、車いす対応の「ハンディキャップルーム」を15室設けたことに始まる。

その後も客室だけでなく、宴会場に補聴器の性能を上げる装置の設置やオストメイト(人工肛門利用者)対応のトイレの導入など、相次ぎ手を打ってきた。ホテルの正面口そばの一角には補助犬専用のトイレも常設。犬の脚に優しい人工芝を敷き詰め、排水機構も備えて外に連れ出さなくてもいいようにした。

ただ、障害者用の部屋を設けていても、団体で宿泊することには「もし何かあれば責任を負えない」と断るホテルも一部ある。京王プラザは関係部署による「委員会」を設けて事前に課題になりそうなことを洗い出し、対応策を用意する。17年の障害者の会合では180頭の盲導犬も来場。スタッフの増員など負担は決して小さくないが「できるできないではなく、やってみる」(中村氏)と、受け入れた。

障害者らが泊まりやすい部屋を設ける動きは、ビジネスホテルにも広がっている。JR大宮駅東口から徒歩3分。1976年創業の「パイオランドホテル」(さいたま市)は6月に増設した客室の1室を車いす対応にした。室内の段差をなくし、ドアを引き戸にして風呂やトイレに車いすのまま入れるようにした。

近くの大宮ソニックシティやさいたまスーパーアリーナでのイベントに来る障害者から、要望が出ていたことに応えた。だが、浜崎良輝支配人は「一家での旅行などでも使ってもらいたい」と、障害者以外の利用もにらんでいる。車いすが必要な高齢者がいる家族が旅行に出るとき、こうした部屋があれば選んでもらえる。このため、この部屋はビジネスホテルでは珍しく5人まで宿泊可能だ。

行政もホテルのバリアフリー促進に動いている。国は19年9月施行のバリアフリー法の政令で、出入り口の幅が80センチ以上ある車いす用客室を、50室以上のホテルには全体の1%以上設けることを義務付ける。都は条例で、全客室で80センチ以上にすることを求める方針だ。

だが、こうした動きを「規制強化」と捉えてしまえば、新たな商機はつかめない。高齢化の加速で家族の誰かが障害を持つということも大いにあり得る。「バリアフリーへの対応はビジネスとして成立させるもの」(京王プラザ)。挑んだ企業だけが新たな需要を獲得できる。

[日本経済新聞朝刊2019年1月16日付を再構成]

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