20代も陥る「スマホ老眼」 目の負担を減らす4原則
「スマホ老眼」という言葉を聞いたことがありますか? これは、スマホなど近距離のものを長時間見続けることで、まるで老眼のように近くが見えにくい状態になってしまうこと。年代を問わず、20代の若い人でもなる可能性があります。吉祥寺森岡眼科院長・森岡清史さんの解説でお届けします。
「物を見るとき、目はレンズの役割をする水晶体の厚みを変えることでピントを合わせています。この調整を行うのが水晶体を取り囲む毛様体筋という筋肉。
近くを見る時には毛様体筋を緊張させることで水晶体を厚くし、遠くを見るときは毛様体筋を弛緩させることで水晶体を薄くします。しかし、近距離作業が続くと毛様体筋が緊張を強いられるため、調節機能が低下してピントが合わなくなり、若い人でも老眼のような症状が出るのです」(森岡さん)
通常の老眼は、このピント調節を司る毛様体筋の老化によって起こります。
通常、50歳前後くらいから老眼鏡が必要になる人が多くなりますが、日ごろからスマホやPCで毛様体筋を酷使し続けていると、毛様体筋の劣化が早まって40歳くらいから本格的な老眼が進んでしまう人もいるそうです。
目の老化を遅らせるためにも、スマホとの付き合い方を見直す必要がありそうです。
目の負担を減らすスマホとの正しい付き合い方
ネットやSNS(交流サイト)だけでなく、カメラやゲーム、スケジュール帳など多用途をこなすスマホは、私たちの日常生活に侵食してきます。できるだけ目を酷使しない、スマホとの正しい付き合い方を森岡院長に聞きました。
【1 画面の照度を調整する】
過度に明るい画面は、眼球にとってストレスになります。特に、もともと瞳の虹彩の色素が薄い人や、疲労によって瞳孔の動きが鈍っている人は、目の中に余分な光が入りやすくなります。
スマホを見る時は、文字が見えにくくない程度に照度を落とすといいでしょう。周囲の明るさに応じた画面照度の自動調節機能をONにすると便利です。
【2 画面は目からなるべく離す】
画面との距離が近くなるほど、毛様体筋の負担が増えます。画面はなるべく目から遠ざけるようにしましょう。
【3 寝る30分前はスマホを見ない】
目の疲れを助長するだけでなく、副交感神経への切り替えがうまくいかなくなり良質な睡眠を妨げます。寝る30分前のスマホやPCは避けましょう。
【4 スマホを使うときはメガネにする】
コンタクトレンズはメガネよりも度が強めに設定されているので、近距離を見る時は毛様体筋が疲れやすくなります。スマホやパソコンを使う時は、メガネにするほうがベターです。
スマホの使用時間を極力減らす心掛けは、本当に大切です。
デジタル機器の使用でドライアイになる理由とは?
長時間PCやスマホを使用していると、目がショボショボしたり、乾いたり、重たくなったりすることがあります。さらに進むと、目だけでなく頭痛や肩凝りが起きることも。
【ドライアイ】
仕事でPCを使う人のなかで、ドライアイに悩まされている人は多いのではないでしょうか。試しに10秒間まばたきせずに目を開けてみてください。目が乾いて開けていられないという人はドライアイの可能性が高いでしょう。
ドライアイは「蒸発亢進(こうしん)型」(涙が蒸発してしまう)と「分泌減少型」(涙の分泌量が減ってしまう)の二つに大きく分けられ、若い人の間で増えているのが「蒸発亢進型」のドライアイです。
涙の成分は「脂層」、「涙液層」「ムチン層」の3層構造になっています。まばたきをすると、マイボーム腺という部分から脂分が出ることで、涙が蒸発するのを防ぎます。
しかし、PCやスマホを長時間使うとまばたきの回数が減るため、脂分が減って涙が蒸発しやすくなるのです。これが、「蒸発亢進型」ドライアイです。目の表面が乾くと、傷つきやすくなってしまいます。パソコンやスマホを見る時は、まばたきの回数を意識するといいでしょう。
【頭痛】
PCやスマホを長時間使うと、同じ距離を、同じ姿勢で、長時間見続けることになります。眼球の周りには、眼球を動かす6本の外眼筋と、まぶたを動かす眼瞼挙筋、眼輪筋などがありますが、同じ姿勢で長時間画面を見続けると、眼球周囲の筋肉と、眼球内部の筋肉がフリーズして筋肉疲労を起こします。眼球は、顔の感覚を伝える神経の三叉(さんさ)神経と近いため、目の周りの筋肉の疲労が目の奥の鈍痛や、頭痛につながりやすいのです。
【まぶたの痙攣】
目を酷使していると、まぶたがピクピクと痙攣することがあります。多くは眼精疲労やストレスが原因ですが、気になる場合は受診しましょう。
「自覚症状がなくても、さまざまなトラブルの根底に眼精疲労が隠れていることも少なくありません。できれば定期的に、眼精疲労の専門医を受診するといいでしょう」(森岡さん)
ハードコンタクトでリスク増。若い人に増えている眼瞼下垂
「眼瞼下垂」とは文字通り、まぶたが垂れ下がる症状。主に上まぶたにある上眼瞼挙筋という筋肉が伸びてしまうことで、まぶたが開きにくくなり、時には黒目まで覆いかぶさって視界を遮ることもあります。加齢による筋力の低下で起こるため中高年に多い病気ですが、最近は若い人にも増えているとか。
「昔より目が小さくなった、目が開きにくい、いつも眠たそうと言われる、目を開く時に眉が上がる・おでこにシワが寄る、といった症状がある人は、眼瞼下垂の可能性も。覆いかぶさってきたまぶたを開こうと余計な力が入るため、慢性的な肩凝りに悩まされる人も多いです。長年ハードタイプのコンタクトを使っている人は眼瞼下垂のリスクが上がります。異物を挿入した状態でまばたきをすることで、上眼瞼挙筋などが薄く伸ばされて筋肉の収縮が失われ、まぶたが上がりにくくなるためと考えられます」(森岡さん)
ソフトレンズよりもハードレンズのほうが異物感が大きく、眼瞼下垂のリスクも上がると考えられているそうです。「最近は処方箋なしでネットなどでコンタクトレンズを購入している人も増えていますが、コンタクトレンズは目の合併症のリスクも上がるため、必ず眼科医の指導のもとで使用してほしい」と森岡さん。
この人に聞きました
医学博士。浜松医科大学医学部卒業後、東京大学大学院医学系研究科にて網膜色素上皮細胞の研究に従事。東京医科大学、田無第一病院眼科医長を経て、吉祥寺森岡眼科を開設。眼精疲労治療室を併設し、東洋医学を取り入れた専門的な治療にあたる。著書に「眼精疲労はまかせなさい!」(現代書林)、「1日3回ツボを押すだけで目はすぐよくなる!」(KADOKAWA)、12月には新著「目がじわじわ楽になる 立体 遠近トレーニング」 (サンクチュアリ出版)も。
(ライター 中島夕子)
[nikkei WOMAN Online 2018年10月18日付記事を再構成]
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