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92%も削る超精米、香り立つ花酵母 茨城・来福酒造

ぶらり日本酒蔵めぐり(8)

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NIKKEI STYLE

筑波山の西のふもと、小貝川の河岸段丘がぶつかる辺りに来福酒造(茨城県筑西市)がある。水に恵まれた土地を見込んで、近江商人が1716年に創業したと伝えられる。「来福」が看板銘柄だが、10代目の蔵元、藤村俊文さんは「どんな好みにも応えられるだけの品ぞろえをしています」と胸を張る。「超精米」と「花酵母」を糸口に、来福酒造の魅力を探る。

精米歩合8%。原料米を92%削って仕込んだ酒が「来福 純米大吟醸 超精米」(720ミリリットル、1万1111円)だ。たんぱく質や脂質を含むコメの外側を削れば、雑味が少なくすっきりと香りが立つ味わいになりやすい。削る比率が高い高精白ほど、原料をぜいたくに使った高級酒とされる。大吟醸酒を名乗る基準は精米歩合50%以下だ。

「超精米」はごく少量を造った時期を経て、定番ラインアップに名を連ねて4年ほどになるという。精米歩合非公表の商品もあるので断言はできないが、市販されている商品で最も精米歩合の高いレベルではないだろうか。飲む側の注目度に呼応して高精白を競い合う風潮もあるが、「超精米」は話題性を追求したわけではないようだ。

原点はコメとの出合いだった。「茨城県で『ひたち錦』という酒造好適米が開発されました。使ってみると、すごく硬いコメで、同業の間でも使いにくいという声が上がっていました」。ひたち錦は2003年に品種登録されたが、県内の酒蔵には戸惑いもあったようだ。「でも、それではもったいないと思いました」

高精白にすればするほど味はすっきりするが、削りすぎるとコメが割れてしまう問題が生じる。どんな種類の原料米を使いどのくらいの精米歩合に落ち着かせるか、酒蔵がそれぞれ蓄積したノウハウをもとに決めている。極端に硬いコメとの出合いは、そのバランスの新しい可能性に門を開いた。

「はじめから30%以下にはしたいと考えました。いざやってみるとかなり削っても割れたりせず、高精白に向いているのがわかりました」。本当はさらに削っても大丈夫だという。「ただ、これ以上精米歩合を下げても味は変わりません。縁起のいい『8』で止めることにしました」。刺し身など薄味で淡泊な料理に合う、独特のフルーティーな香りと優雅で繊細な後味を実現した。

来福酒造では原料米を自家精米している。筆者が蔵を訪ねた際、ちょうどひたち錦を精米中だった。制御盤の数字を見ると「49.7」とある。半分くらい削れたところのようだった。「900キログラムを8%まで削るのに10時間以上かかります」。同社に入って10年になるという、杜氏の佐藤明さんが精米途中のコメ粒を見せてくれた。「均等に丸くきれいに削れています」

醸造する日本酒のほとんどに、花から抽出された花酵母を使っているのも来福酒造の特徴だ。「超精米」も例外ではなく、毎年の新酒鑑評会に出品する酒にも花酵母を使う。

花酵母とは、元東京農業大学の中田久保教授が自然界から日本酒の醸造に有効な酵母として分離抽出したもので、機能は既存の日本酒酵母と変わりない。2003年には「花酵母研究会」が発足。今、日本酒酵母として分離された花酵母は14種類になった。全国の約30の酒蔵が研究会から花酵母を譲り受け、それを使って日本酒の商品化を手がけている。来福酒造では自家培養もしている。

花酵母といっても花の香りがするわけではない。「花酵母、というと女性からは受けがいい。でも年配の男性からは、花の香りの酒が飲めるか、といわれることもある。誤解なんですけどね。だから『花酵母ですよ』とあまり強調しないようにしている」。藤村さんは、花のイメージよりも酒としての香味を、飲んで感じてほしいと願っている。

酵母は酒の香りを決める重要な役割を果たす。代表的な吟醸香にはカプロン酸エチルに由来するリンゴっぽい香りと、酢酸イソアミルからくるバナナ風の香りがあるが、花酵母もそうした分類ができるようだ。佐藤さんによると「ナデシコやアベリア、アジサイ、タンポポなどはリンゴっぽい、フルーティーで華やかな香りが立ちます」という。対して「ベゴニアやサクラ、ヒマワリは酢酸イソアミル系。中間的なのがツルバラです」。

すべてが華やかな香りではなく、力強さやキレを感じさせる種類もある。「花酵母研究会の発足直後、会員の蔵がこぞって、ナデシコを使った、すごく華やかな香りが立つ酒を世に送りました。そのイメージに引きずられて花酵母イコール華やかと思われているところもありますが、うちの酒はむしろイソアミル系の穏やかな香味のものが多いです」

定番商品、季節商品、企画商品をすべて合わせると、年間60種類の日本酒を醸造しているという。佐藤さんによると「コメは25種類、酵母は花酵母以外も含めてだいたい20種類ぐらいを使っています」。計算上は500ほどの組み合わせ数になるが「コメと酵母のベストマッチを探る中で組み合わせが絞られてきます」。

ベストマッチはすぐに見つかるものなのだろうか。「花酵母ごとにデータはありますが、初めて使うときにはあまり先入観をもたずに造っています」と佐藤さん。消費者の反応と売れ行きが答え合わせとなるが、さっぱりだめ、という失敗はほとんどないという。「逆に醸造過程で失敗だと思っても、案外仕上がりがよくて評価されることもあります」

25種類もの原料米を使いこなす蔵はそうそうない。まず、ひたち錦など茨城県産米。山田錦や五百万石、美山錦の生産量上位3品種。加えて、漫画「夏子の酒」で知られる亀の尾、山田錦と雄町の交配種の流れをくむ愛山、北海道で開発され2000年に品種登録された吟風など。倉庫に積まれた袋には、個性的な特徴をたたえた品種の名が書き込まれている。

佐藤さんは洗米の段階からコメの品種、精米歩合、目標とする吸水率など異なる要素を細かく管理しながら工程を進める。酒造りは毎年9月には始まり、翌年6月まで続くという。「季節商品や企画商品もあるので、どうしても種類が多くなる傾向にありますね」と笑うが、製造計画から工程管理まで、苦労がしのばれる。

来福酒造の商品には「来福 純米吟醸 愛山」「来福 純吟生原酒 八反」などとコメの品種を明示したものが多い。藤村さんは「山田錦で造った酒、といえば飲む前からだいたいイメージがわくと思います。でも『八反』だとどうでしょうか。先入観なく味わってもらえる利点もあります」と話す。好奇心をかき立てる効果がある。

藤村さんは「伝統の味とか来福の味とか、こだわってとどまるつもりはありません。老若男女、いろいろな好みの人がみな満足してほしい。そういう多様な商品を提供したい」と強調する。「そのためのチャレンジを日々しています。新しいコメ、新しい酵母が出てくれば、もちろん試します」。甑(こしき、コメを蒸す器)に蒸気を送る機械や、醪(もろみ)を絞る遠心分離機など、設備投資にも積極的だ。

日本酒だけではなく、焼酎やワインも製造している。焼酎はコメ、ムギ、イモ、クリの4種類を時期をずらしつつ仕込む。ワインは茨城県産のブドウをつくばワイナリー(茨城県つくば市)や契約農家から調達し醸造している。「3年目の仕込みが終わり、これが売れればワイン醸造の本免許が下り、来年からは本格的に造れそうです」と佐藤さんは目を輝かせる。これもチャレンジのひとつの形なのだろう。

 目印だった煙突は東日本大震災の際に壊れ、危険防止のため上部を解体したそうだ。仕込み水は敷地内の井戸からくみ上げている。蔵見学は完全予約制。最寄り駅はJR水戸線下館駅。車なら常磐自動車道谷和原インターチェンジから。順路はわかりやすいが国道294号を30キロほど北上する。

(アリシス 長田正)

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