TRF SAMさん 57歳でキレのあるダンスができる秘密
カリスマダンサーの体マネジメント術(上)
1993年のTRFのメジャーデビューから大舞台で踊り続けてきたSAMさん。2019年1月で57歳になったが、今もステージ上で"キレキレ"のダンスを披露する。なぜ今でも若者に負けない動きができるのか。その秘密は、自身で考案した「ストレッチ」にあるという。
――SAMさんは50代後半とは思えないほど、今でもキレのあるダンスを披露されています。ご自身の著書『年齢に負けない「動ける体」のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)では、踊れる秘訣として「ストレッチ」を挙げていらっしゃいますが、昔からストレッチを重要視されていたのですか?
ストレッチさえ続けていれば、高齢でも動ける体でいられると思うようになったのは、僕自身が50歳を超えてからだと思います。
僕がダンスを真剣に始めたのは、17歳の頃でした。独学でストリートダンスを練習していた当時は、体や運動に関する知識がなく、ストレッチも今ほど重要だと思っていませんでした。ダンサーなら体が柔らかくなければいけないぐらいの考えで、テレビを見ながら開脚するぐらい。
その考えが覆ったのが、23歳のときでした。本格的にダンスを勉強したいと思ってジャズダンス教室に通い始めたとき、レッスン前に、ウォームアップやストレッチだけの時間が設けられ、ダンサーたちが何のために体のこの部位を伸ばすのかということを考えながらストレッチしているのを知りました。ストレッチに対する意識の高さにカルチャーショックを受けました。
その後、ニューヨークに1年間ダンス留学したときも、ストレッチを専門にしたクラスがありました。寝そべってゆっくりと筋肉を伸ばす動作により、実はインナーマッスルも鍛えられるなど、ストレッチの奥深さを学ぶと同時に、ストレッチがいかに踊るために大事なのかも知りました。そんな経験を通じて、踊る前にはストレッチの時間を必ず設けるようになりました。
ストレッチの3つのメリット
――ストレッチを習慣化するメリットは何ですか?
ストレッチの大きなメリットは、体を伸ばしてほぐすこと、柔軟性を得られることですが、年々、僕の中でのストレッチの概念が進化していき、今は柔軟性を高めるだけでなく、しなやかで体の根幹が強くなるような体づくりの一環として捉えています。
1つ目は「自分の体の異変に気づいてメンテナンスできる」ことです。定期的にストレッチをしていると、違和感や痛みなどちょっとした変化を敏感に察知できるようになります。「今日はなんだか関節が詰まっているから、ゆっくり伸ばしてほぐそう」「ケアをしっかりしよう」「痛みを感じるから、レッスンの後にマッサージをしてもらおう」などといち早く気づき、ケガや不調を防ぐこともできる。特に年齢を重ねると回復力も衰えますから、体の状態を確認する時間を定期的に作って整えることは、大事だと思います。
2つ目は、先ほども話しましたが、「柔軟性を得ながら、筋力や体幹も鍛えられる」ということ。柔軟性を高めようと自分の筋肉と向き合えば向き合うほど、より中心(骨)に近いインナーマッスルを意識し始めます。体の中心部を意識してストレッチを行うと、実はインナーマッスルを鍛えていることになるんです。
例えば、片足立ちしながら、もう片方の足を上に上げるようなストレッチをすると、バランスを取ろうとするので、おのずと体幹が鍛えられます。つまり、体の中心部を意識しながら、ゆっくりとした動きで柔軟性を高める動作は、体幹を鍛えるトレーニングにつながるんですね。僕がやっているストレッチには、ゆっくりとした動きを何回も繰り返すことで、筋持久力が鍛えられるものもあるし、音楽に合わせてリズミカルに動きながら、瞬発力を鍛えられるストレッチもあります。
3つ目は、「ヒーリング効果が得られる」ということ。体を伸ばすことにより腰や肩の痛みが和らいだり、気持ちいいと思えたりします。体がほぐれてラクになれば、イライラが軽減されます。特に寝る前にこうしたヒーリング効果を得るだけでも、深い睡眠につながりやすくなり、疲労軽減にもつながるでしょう。
このようにストレッチには柔軟性の向上に加えて、メンテナンスや体幹の強化、ヒーリングなどいくつもの効果を期待できます。激しい筋トレをしなくても体を引き締め、しなやかで強い体をつくることができるので、特に高齢の方にはお勧め。僕は「ストレッチ最強説」を唱えています。
ジムの筋トレは合わなかった
――その「ストレッチ最強説」にたどり着くまでには、ご自身でも様々なトレーニングを試されたのでしょうか。
ダンスのためになると思ったことは、一通りやりましたね。例えば、ニューヨークにいた頃は、ゴールドジム(編集部注:米国を中心に世界中で展開されているトレーニングジム)に毎日通って筋トレに励みました。でも体質的に、いくら鍛えても体が全然大きくならないんですよ。日本でもフィットネスクラブに通って、食事療法を行いながらトレーニングをする肉体改造プログラムを実施したことがありますが、結局疲労だけが残り、肉体改造がダンスにつながっているとも思えませんでした。体質的に自分には合わなかったのかもしれません。
その後、重いリュックを背負いながら懸垂をすることにハマったり、ウエートを背中に乗せて腕立て伏せをしたりしたのですが、筋肉だけがついて逆に踊りにくくなった時期がありました。TRFのメンバーからも「なんか動きがおかしいよ、筋肉をつけすぎたんじゃない?」って言われちゃって(笑)。
自分の体を実験台にして一通り試しましたが、結局、自重だけの懸垂や腕立て伏せ、チューブを使った腕や足のトレーニングを週2回行うことと、体幹運動を意識した日々のストレッチのみに行き着きました。
――具体的にどんなストレッチをされているのですか?
自分にとってどうすれば気持ちよくて、何が必要かと考えていけば、おのずとオリジナルのストレッチになっていきます。時代の流れとともにはやりのストレッチがあり、新しいものを取り入れながらアレンジしていくイメージでしょうか。トップダンサーになるほど、それぞれ自己流のストレッチを確立していると思います。
僕の場合、レッスン前やコンサートなどで踊る前に、好きな音楽をかけながらストレッチすることが多く、その時々で内容は変わります。40分ほどかけてストレッチしますが、天候が悪く体が動きにくい冬場はじっくりと長くやりますし、逆に夏場は筋肉が伸びやすいので時間はあまりかけません。特にコンサート前は、ある程度筋肉が緊張していた方がいいので、気持ちがいいと思うまで伸ばしすぎず、10分ぐらいでさっと終わらせることがほとんどです。
ここ3年は、足腰を鍛えようと思って、スクワットや足腰が鍛えられるストレッチを意識して取り入れています。ダンサーだから足は常に使っているのですが、やっぱり年齢とともに衰えてきたことが分かるんです。そのストレッチの一つが、「リズム屈伸」です。
(文 高島三幸、写真 鈴木愛子)
ダンスクリエイター、ダンサー、1993年TRFのメンバーとしてメジャーデビュー。コンサートのステージ構成をはじめ、アーティストの振り付けやプロデュースも行う。自ら主宰するダンススタジオでもレッスンを行う。2016年にダレデモダンスを設立、代表理事に就任。子供から高齢者まで誰もが親しみやすいダンスを広めている。新著に『年齢に負けない「動ける体」のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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