上位に入った運用会社の役員、担当者らが壇上で表彰される年に1度、個人投資家自らが優れた投信を選ぶ「ファンド・オブ・ザ・イヤー2018」の発表会が13日に都内で行われ、数多くの個人投資家が詰めかけた。保有コストである信託報酬を常に業界で最低水準にすることを目指すインデックス型投信「eMAXIS Slim」シリーズ(三菱UFJ国際投信)がランキング上位10投信のうち5本を占めた。長期で積み立て投資する若年層が広がり始めていることを背景に、コストへの関心がさらに強まっている。
投票したのは、投信に関するブログを書いている投信ブロガー241人。投資を続けながら独自に勉強を重ねている「目利きの個人投資家」たちだ。30~40代で商社、通信、金融など様々な業種で働く会社員が主体。ブログの閲読者が月数十万人を超えるブロガーも多い。
主催者の一人、rennyさん(ハンドルネーム)らが「金融機関で薦められる『売れ筋』投信と、個人投資家が評価する投信との差が大きい。自分たちから見たベスト投信を選んで発表することで、より良い投資環境をつくっていきたい」と始めた。今回は12回目だ。「個人に支持されている」という評価は販売増にもつながるため、運用会社がこのランキングの公表時期を見据えてコストを改定するなど業界への影響力も年々強まっている。
■常に業界最低コスト目指す
1位となった「eMAXIS Slim先進国株式インデックス」をはじめとするSlimシリーズは、信託報酬がいずれも年0.1%台。同じ資産クラスで他社がより低い信託報酬を打ち出せば追随して引き下げる方針を表明し、実際に過去に数度にわたって引き下げてきた。投資家からは「これを持っていればいつも最安コストで投資できるという安心感がある」という声が多く聞かれた。
18年は10月以降、世界的に株価が大きく調整、「Slim先進国」も年間で基準価格は1割強下落した。しかし長期の積立投資をしているブロガーが大半なので動揺はみられない。
発表会に出席した三菱UFJ国際投信の代田秀雄常務執行役員は「相場が変動しても投資を継続してもらえるよう様々な努力をしたい。例えば残高が500億円を超える部分は信託報酬をさらに下げる仕組みにしているが、今年は残高増により幾つかの投信でこの仕組みが初適用になりそうだ」とあいさつした。
2位は「ニッセイ外国株式インデックスファンド」。「残高が増えれば投資家に還元する」という姿勢で先行して積極的にコストを下げ続けてきたことで評価されている。ニッセイアセットマネジメントの上原秀信常務は「この夏も信託報酬を引き下げたが、投信のコストは信託報酬だけではない。監査報酬や対象銘柄の売買手数料など信託報酬以外の様々なコストの引き下げも業界に率先して引き下げているし、それを今後も続ける」と話した。
■実質コストにも注目
昨年1位だった「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」は9位に後退した。17年9月の設定で、投資対象は米投信会社バンガード社の上場投信(ETF)であるバンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT)だ。先進国と新興国全体を対象に、大型株だけではなく中小型株まで網羅するFTSEグローバル・オールキャップ・インデックスという指数に連動する。
信託報酬は年0.2%台だが、昨年秋に開示された運用報告書によると、銘柄の売買手数料などを加えた第1期の実質コストは年換算で約0.5%だった。「思ったより高い」と一部に失望感があったようだ。
ただし売買手数料率は手数料を期中の平均残高で割って計算するので、設定後の第1期など残高が小さい時期は高く表示されてしまう。資産規模が増えるにつれて急速に低下するのが通常なので、今後の推移次第で再評価される局面もありそうだ。
■「ひふみ投信」が圏外に、ベスト10から姿を消したアクティブ型
もともとこの賞の上位にはインデックス型が選ばれやすい。運用者の腕で平均を上回ることを目指すアクティブ(積極運用)運用で成功すればコスト差などをはるかに上回る成績を得られるが、長期で勝ち続けるアクティブ型投信を事前に選ぶことの難しさを、多くのブロガーは熟知している。そんな中でも昨年までは、日本株中心に好成績を上げ続けたことで知られるひふみ投信(レオス・キャピタルワークス)などアクティブ型が上位に数本選ばれることが多かった。
しかし今回はこのランキングで初めて、アクティブ型がベスト10から姿を消した。ひふみ投信は前回の6位から11位に後退した。
コストに対する評価が強まっていることに加えて、ひふみ投信の18年の運用成績が08年の運用開始以来初めて、市場平均を下回ったことが失望されたようだ。投資家からは「投信の残高が大きくなると銘柄選びの自由度が低くなり成績が鈍化することが過去に見られてきた。ひふみもそういう時期に差し掛かっているのではないか」と心配する声が聞かれた。
■運用会社と投資家が交流
発表会の後はアルコールを飲みながらの懇親会で、100人を超える個人が参加。運用会社の役員や商品企画担当者と、運用の状況や考え方などについて対話が続いた。40代男性投資家は「長期投資では相場の下落時などに心が折れそうになる。投資家同士や運用会社と語りあえるこうした機会はうれしい」と話していた。
(編集委員 田村正之)
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