写真はイメージ=123RF世界の金融市場が波乱の様相を示している。2019年の投資信託運用を考える上ではいや応なくリスクへの備えが怠れない。リスクのとりすぎは大きな元本割れを招く可能性もある。投信選びの参考にと、金融庁が定めた「共通KPI(成果指標)」を使って、投信のリスクとリターンの関係を検証してみた。
金融庁は18年6月、投信の販売金融機関における「顧客本位の業務運営」への取り組み状況を表す成果指標として共通KPIを発表した。その一つが主な販売ファンドのリスクとリターンの関係を示す指標だ。
■共通KPIでリスク・リターンを見える化
これは投信販売会社が取り扱っている主要ファンドについてリスクに見合ったリターンを上げているか、両者の関係を「見える化」して比較評価するもの。金融庁は投信販売会社に自主的な公表を求め、顧客本位の徹底を促した。
具体的な数値を見てみよう。18年9月末までに共通KPI(18年3月末時点)を公表した39社のうち3社以上で預かり残高上位20本に入った70本あまりのファンドについて、直近のリスクとリターンを計算(双方とも年率換算)し、表Aにまとめた。
資産運用の世界でリスクとは価格変動リスクを指す。一般にリスクが大きいほど荒っぽい値動きとなり、小さいほど緩やかな値動きになる。リスクが低くても元本割れの可能性はゼロではないが、元本割れの度合いは小さく収まるのが通例だ。
この価格変動リスクを定量的に測るのが「標準偏差」という指標だ。同指標は投信の基準価格(課税前分配金再投資ベース)について、過去5年や1年などの期間で一定間隔刻み(月次や週次)のリターンを算出した上で、リターンの大小のバラツキ度合いを計測する。
ここでは対象ファンドを主な投資対象別(日本株、海外株など)に分け、18年末時点での過去5年のリスクとリターンを計算し、リターンをリスクで割った運用効率の上位と下位各2本をピックアップした。併せて過去1年でのリスク・リターンと運用効率も計測し、表に加えた。
■ハイリスク・ハイリターンの関係が鮮明に
表Aのリスクとリターンの関係をグラフにすると、ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンの関係がより鮮明になる(グラフB)。
例えば、国内債券で運用し、5年リスクが表Aの中で最小(年率1.3%)の「ダイワ日本国債ファンド(毎月分配型)」(グラフ中の(21))の5年リターンは年率1.1%と小さい。その一方で、リスクが最大(21.4%)の「日興ピムコ・ハイインカム・ソブリン・ファンド毎月分配型(トルコリラコース)」(同(11))のリターンはマイナス4.1%と最低だった。
ハイリスクの投信は高いリターンを狙える一方で、元本割れの度合いが膨らむ可能性も高いことを示している。それは計測期間を金融市場が不安定だった過去1年に変えてみるとより明確になり、リスクが高いほどリターンが右肩下がりとなった傾向がみられる(グラフC)。例えば、5年リターンが10.7%と最大に近かった「ひふみプラス」(同(1))は1年ではリスクが23.8%に上がり、リターンはマイナス21.2%と3番目に大きい下落率を記録した。
こうした中で、注目されるのは国内REIT(不動産投信)で運用するファンドのリスクだ。「J-REIT・リサーチ・オープン(毎月決算型)」(同(13))などは1年のリスクが9%程度でリターンが約10%と堅調だった。REITは比較的安定した賃料収入の大半を分配金に回すことから「ミドルリスク・ミドルリターン」の特性を生かした金融商品として登場したが、08年のリーマン・ショックの前くらいから、株式と同等かそれ以上にハイリスク化していた。現在は株式などとの分散投資効果も期待できる本来の商品性に戻ってきているようだ。
■リターンをリスクで割る運用効率も尺度に
リスクとリターンの関係をファンドごとに比較するには、一つの尺度にまとめるのが手っ取り早い。その尺度が運用効率という指標で、簡便にはリターンをリスクで割って求める。「シャープレシオ」とも呼ばれる。運用効率を基にすると、運用で取ったリスクに見合うリターンを上げたかどうかの比較が容易になる。運用効率はグラフ上のリスク・リターンの数値と原点を結んだ直線の傾きに相当するので、傾きが上の方に大きいほど運用効率が良好ということになる。
リスクで割り算する関係で、リスクが小さいほど運用効率のプラス・マイナスの絶対値が大きくなりやすいのは注意点だ。このため、運用効率でファンドの良し悪しを評価するには、運用効率の単純な序列ではなく、表Aに示すように同じ分類や期間別に分けた上で総合的に判断するのが望ましい。
■今後は投信の顔ぶれの変化も注目点
金融庁が18年11月に公表した共通KPIに関する分析結果によると、運用効率が高いファンドをそろえた販社ほど元本割れしていない顧客数の割合が高まる傾向があるようだ。
リスク・リターンの図表からはどんな投信を多く販売しているかという傾向も読み取れる。18年3月末時点では集計対象とした投信の約7割が毎月分配型だった。今後は投信の顔ぶれの変化も注目点になる。
19年からは数多くの販社が共通KPIの公表に踏み切ることが見込まれる。設定後5年未満が含まれない点や、計測期間が5年に固定されているなどの制約には注意する必要はあるが、ファンドのリスクとリターンの関係の点検に役立てたい。
本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。