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匠の〆技 明石の鯛、うまみの心髄は余韻にあり

かんさい食物語

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NIKKEI STYLE

訪日外国人(インバウンド)の関心も高い関西の食。いにしえより歴史を積み重ねてきた関西の食文化は奥行きが深く、様々な逸話に彩られています。大阪、神戸、京都など個性的な都市で、あるいは山で、海辺で、地域に根ざして歩む関西の食の話を随時連載します。

新年の初競りで何かと注目を集めるのは、口がぽかんと開いてしまうほど高い値の付くマグロだが、関東の話である。瀬戸内海に面し、白身魚が豊富な関西において「魚の王者」といえば昔も今も、やはり鯛(たい)だろう。

文豪、谷崎潤一郎の関西を舞台にした代表作「細雪」にこんな一節がある。

「彼女の説に依(よ)ると、形から云(い)つても、味から云つても、鯛こそは最も日本的なる魚であり、鯛を好かない日本人は日本人らしくないのであつた」(谷崎潤一郎全集第十五巻、中央公論社、1968年)

彼女とは小説に登場する四姉妹の次女、幸子である。この文に美食家だった谷崎の嗜好が幾分か投影されているとみるのは鯛への贔屓(ひいき)が過ぎるだろうか。

昨今は養殖の鯛も、とてもおいしいが、天然物で昔から広く知られているのが明石の鯛だ。京都や大阪の名店が求めるこの魚は、本州と淡路島に挟まれた明石海峡などの漁場で漁獲される。引き締まった身と上品な脂が身上。エビなどの餌を食べ特有の早い潮流の中で育つ。

古来の名品に老舗の技

京都市中心部の河原町三条近くにある老舗割烹(かっぽう)の「河しげ」では明石鯛が手に入れば客に供す。店主の浅見雷三さん(59)は顧客の目の前で包丁を振るい、お造りをこしらえる。

厚めに切った鯛の上にシソの花がふわりと載る。鯛の身は半透明。器の中の景色は、すでに芸術品のようである。

たっぷりとしょうゆをつけて口の中で噛(か)み、飲み込んだ後に驚くのはうまみの余韻だ。極上のワインは「あーうまかった」という余韻が長く続くものだが、その印象に似ている。

「味が分かるよう厚みを持たせて真っすぐ切る。厚いとしっかり噛んでいただけます。包丁で魚の細胞を壊さないようにしています」と浅見さん。創業した祖父から「鯛はしめて7、8時間後からおいしくなる」と聞いたそうだ。しょうゆにもこだわる。ここには京都の老舗の技があった。

明石鯛は古来、名品とされてきた。江戸時代の名所案内「播州名所巡覧図絵」には羽柴秀吉が天正9年(1581年)、織田信長に明石の干鯛を献上したという記述がある。当時の水揚げや出荷の様子は分からないが、現在と違うことは確かだろう。

匠の技「明石浦〆」でうまさ引き出す

明石鯛を扱う漁協の一つである明石浦漁業協同組合(兵庫県明石市)が午前11時半に始める競りは見たことのない風景だった。寒い中、プールのように大きないけすの中に人が足を入れて立ち、生きた魚を運び出して順番に競りにかける。競りの台の上では大きな鯛がビチビチ跳ねていた。

「漁師さんはいかにいい状態で生きた魚を持って帰るかがポイント。漁師さんのテクニックですわ。ここでは網でとってもダメージが少ない」と明石浦漁協の総務部長、宮部博行さん(45)が説明してくれた。競りには仲買人とともに漁協も参加し、魚を買い付けて出荷する。実はこの過程にも鯛のうまさを引き出す技術がある。

「伝統の匠(たくみ)の技 "明石浦〆(じめ)"」。漁協のパンフレットの見出しだ。競り落とした魚は一撃で脳死させ血を抜く。さらに背骨上側に沿う神経穴に針金を通し、神経を破壊して死後硬直を遅らせるなど、工夫を凝らす。「年間何百人と視察に来られます」と宮部さん。ここでは漁師や漁協の技が光っていた。秀吉が見たら驚くだろう。

この漁協の近くで「小料理 五半」を営むのが伊藤道直さん(45)。自ら競りに参加し、買い付けた魚でおまかせコース(4700円)の一連のメニューを組む。最後に登場した土鍋炊きの「鯛めし」は明石鯛のふくよかな味わいにやさしく包まれる堂々の一品だが、この料理に至るまでが振るっていた。

鮮度がずぬけた生のシラスから始まり、コリコリした歯応えのイカのお造りやハマチ、スズキの料理が続く。「魚ばかりで、あきられないようにどうやり繰りするかです」と伊藤さんは言った。

しかし、この構成。頭に浮かんだのはベートーベンの交響曲第9番だ。最後の鯛めしは第4楽章の「合唱」。第3楽章までのシラスやイカが盛り上げていき、鯛めしで爆発する。海辺の地元ならではの食の技があった。

明石鯛は地元では食卓にも登場する。兵庫県にはこの鯛を扱う量販店や鮮魚店がある。生活協同組合コープこうべ(神戸市)では入荷があれば店頭に並び、小ぶりのものなら1匹千円以内で買うことができる。

関西の話をしてきたが同漁協では明石鯛を関東にも出荷している。「関東は胃袋のでかさが違います」と宮部さんは笑った。マグロの天下である関東で料理人やシェフは明石鯛にどのような新たな技を施していくのだろうか。こちらの興味も尽きない。

(伊藤健史)

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