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フレグランス業界の風雲児、フレデリック マルの流儀 世界のトップリーダーを惹きつけるワケ

GOETHE

2019/1/21

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香り、そして調香師に焦点を当てた原点回帰のクリエーションで、失われつつあったラグジュアリー パルファムの世界を華麗に甦らせた<フレデリック マル>。世界最高峰の調香師たちが創り上げる唯一無二の香りの芸術は、多数のトップリーダーが愛用者として名を連ねる。2018年10月に日本本格上陸を果たし、パルファム愛好家たちを歓喜させたこの仏発パルファム ブランドの創設者でありCEOのフレデリック・マル氏が、革新的なクリエーションとビジネススタイルについて語った。




香りは人間を物語る"纏うアート"

祖父はパルファン クリスチャン ディオールの創設者。母親もまた、同社のフレグランス部門で采配を振るった経歴を持つ。そんな香りのスペシャリストの系譜を受け継ぎ、幼少より英才教育を受けていたフレデリック・マル氏は、2000年に「エディション ドゥ パルファム(香りの出版社)」をコンセプトに掲げた自身のブランドを創立。自らを"編集者"になぞらえる氏の戦略は、"著者"である調香師たちに完全に自由なクリエーションの場を提供し、彼らの名を冠した“香りの芸術作品”を共につくり上げることにある。

パルファム 各100ml 26,000円~42,000円。香りによって理想的な濃度が異なるため、実際はオーデトワレやパルファムなど製品ごとに仕様が異なる。ボトルには香りの名称とともに、調香師の名前が記されている。

納期や原料に制限を一切設けず創造性を追求するという、献身的ともいえるスタイルは、ビジネスの面でいえばリスキーにも思える。しかし、フレグランス業界の状況を誰よりも熟知していたマル氏には成功の確信があった。

「当時、たくさんのパルファムが存在していましたが、主役になるのはボトルの形や広告イメージといったものばかり。香りそのものは品質が低く、後づけ的な存在でした。そんなマスマーケットに失望し、パルファムから離れる人も多かったのです。

しかしパルファムは本来、身に纏うことで、ブランドイメージは意味を成さなくなるもの。大事なのは"その香りを自分がどう感じ、纏った自分がどのような印象を与えるか"にあります。その本質が不変である以上、クオリティが高いものをつくれば、パルファムから離れている人たちに必ずマッチングする。長い間その需要が見逃されていただけで、ラグジュアリー パルファムはビジネスとして成立すると考えたのです」

偉大な調香師たちが最高の原料、最高のテクノロジーを用いて自由に製作すれば、素晴らしいものが出来上がる。マル氏が抱いた自信は、実に揺るぎないものであった。

「コスト対策に至っては、さらに明快ですよ。私たちのブランドは広告にスターを起用することもなく、どの香りもボトルやパッケージは一緒で、デザインも極めてシンプル。ブランドイメージ戦略に対してほとんど費用を割いていないため、存分に中身への投資ができるのです。需要はある、品質の高い製品もつくれる。そんな自信があったからこそ、必ず取り戻すことができると考え、楽観的に挑みました」

生まれ育った環境により、幼い頃から香りの世界に対する認識が強かったというフレデリック・マル氏。「中学生の頃には、香りが自信をくれるものであり、女の子と過ごす機会をもたらしてくれるものだと確信していました(笑)」

マル氏の狙いは正しかった。フレデリック マルは現代のラグジュアリー パルファムの先駆者として、フレグランス界に変化をもたらすことになる。ブランド自体も成長を続け、創立当初は9種類だったパルファムの種類も26種類に拡大。才能豊かな調香師たちの妥協なきクリエーションによって生み出される香りは、いずれも独創的で美しく、記憶の底に刻まれるような深い印象を残す。

「12名の調香師それぞれに自分のスタイルがあり、さまざまなアイディアを抱えています。その結果、多彩なパルファムが揃い、たくさんの香りの中からお客様が自分のパーソナリティに合うものを選択できるようになったのです。

実際、香りの表現別で縦方向に"フレッシュなもの~深みがあるもの"、横方向に”甘みがあるもの~苦みがあるもの"と分類するピラミッド型のチャートを社内で作成してみたところ、偶然ではあるものの、26種類の香りがバランスよく分散し、全体をカバーしていることがわかりました。他のブランドはひとつのエリアに偏っていることが多いため、この多様性は私たちの特徴と言えるかもしれません」

キャンドルなどのホームライン(日本未発売)の他、ヘアミストやボディミルクなどのボディラインも一部のパルファムと同じ香調が揃う。より日常的に香りを楽しみたい人に。

偶然であるとは言いながらも、バランスよく展開されるラインナップは、顧客が抱く内なるニーズを逃すことなく掬い上げることを意味する。もちろん、それぞれの品質に対するこだわりは言うまでもない。

「パルファムは目には見えません。それゆえに官能的で、人間と人間を結びつけるものになりうる。見た目を飾るものはたくさんありますが、パルファムは肌になじみ、その人の一部になります。もともとは花の一部だった香料がパルファムとなり、最終的には肌と一体化して人間の一部になる。だからこそ、いいパルファムとは総じて人間らしいものだと言えるのです。私が調香師と香りをつくる時には、必ずそのことを考えています」

「アーティストがつくり出す偉大なパルファムは芸術作品。ピカソやウォーホルの絵画と同じです」とマル氏。声高に主張することなくボトリングされたこの静謐なアートは、纏った瞬間からゆっくりと肌に溶け込み、重厚なストーリーを展開していく。そこにスターやブランドのイメージは存在しない。純然たる香りだけが、纏った人間のパーソナリティを物語り、周囲の想像力を掻き立てるのだ。セルフプロデュースを求められるトップリーダーたちが、フレデリック マルのパルファムを愛する理由は、そこにあるのかもしれない。

「ムスク ラバジュール(破滅のムスク)」「ル パルファム ドゥ テレーズ(テレーズのために)」など、想像力を掻き立てられる官能的なネーミングも特徴。日本橋三越本店に続き、第2号店が11月28日に日本橋高島屋にもオープン。(フレデリック マル お客様相談室 TEL:03‐5251‐3541)
フレデリック・マル
1962年生まれ。パルファン・クリスチャン・ディオール創設者である祖父を始め、アーティストや実業家が名を連ねる家系に育つ。ニューヨーク大学で美術史、経済学を学び、卒業後は広告代理店を経て’88年にルール・ベルトラン・デュポン社に入社。数々の調香師たちとの出会いを果たす。2000年に自身のブランド、フレデリック マルを設立。ファッション・デザイン業界で著しい功績を挙げた人物を称える「2018 FGI ナイト オブ スターズ」にてビューティアワードを受賞するなど、フレグランス業界を牽引する存在として注目され続けている。

※記事中の価格は税抜きです。

Text=真島絵麻里

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[ウェブサイト「GOETHE」2018年11月22日の記事を再構成]

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