教育資金と結婚・出産・育児資金で、4月からもらう側の子や孫に所得制限が設けられるお屠蘇(とそ)気分も抜けないある夜。筧家のダイニングテーブルでは、幸子がパソコンで表のようなものを作っています。傍らには2019年度の税制改正について報じた新聞や確定申告のやり方を解説した本があります。そこへ良男と恵がやって来ました。
筧(かけい)家の家族構成筧幸子(48)良男の妻。ファイナンシャルプランナーの資格を持つ。筧良男(52)機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。筧恵(25)娘。旅行会社に勤める社会人3年目。筧満(15)息子。投資を勉強しながらジュニアNISAで運用中。
筧恵 何を作っているの?
筧幸子 今年は税金のイベントが目白押しだから、いつ、何があるのかをまとめたの。表には確定申告のように毎年やってくるイベントも書き込んであるけれど、個人や家計に関係する税制改正が結構あるでしょ?
筧良男 10月に消費税率が8%から10%に引き上げられることが最大のイベントだな。
幸子 そうね。酒類を除く飲食料品や新聞は8%の軽減税率が適用されるほか、政府の経済対策もあるから「家計の負担増はそれほどでもない」という見方もあるけれど、やはり家計に逆風なのは間違いないわ。
良男 1月から順に見ていこうか。
幸子 既に4日から所得税の還付申告の受け付けが始まっていることは知ってた?
恵 所得税の確定申告は例年2月16日からよね?
幸子 今年は2月16日が土曜日だから受け付けは18日から。最終日は3月15日よ。1年間の全ての所得を計算して申告し、納税する所得税額を確定させるのが確定申告。だけど納め過ぎた税金が戻ってくる場合は今でも申告できるの。これが還付申告よ。早めに申告すれば3月には還付金を受け取れるわ。還付申告の代表的な例は、医療費控除や住宅ローン控除、年末調整後に結婚した場合の配偶者控除、配偶者特別控除などね。
恵 2月1日から3月15日までの贈与税の申告では、お得になることがあるの?
幸子 贈与税は1年間にもらった額が基礎控除(年110万円)を超えれば申告する必要があるわ。申告しておかないと後で困る場合があるからよ。子や孫の教育資金や住宅取得資金を祖父母や父母からまとめてもらった場合、一定額まで贈与税がかからない制度があって、例えば住宅取得資金をもらった場合は、昨年だと最高1200万円まで非課税でもらえるわ。ところが、贈与された翌年3月15日までに申告しないと認めてもらえないの。
良男 教育資金や住宅取得資金の非課税制度はカレンダーのあちこちに登場するな。
幸子 税理士の藤曲武美さんは「今年の大きなポイントは贈与の非課税制度の改正」と話しているわ。子や孫へおカネを一度にまとめて贈与しても一定額まで贈与税がかからない使途は教育資金、結婚・出産・育児資金、住宅取得資金の3つだけど、4月から教育資金と結婚・出産・育児資金で、もらう側の子や孫に所得制限が設けられるの。前年の所得金額が1000万円以下でないと利用できなくなるの。これまでは所得制限がなかったけど、「子や孫に多額の所得があっても非課税なので批判が高まっていた」と藤曲さんは指摘するわ。住宅取得資金の非課税制度はもらう側の所得が2000万円以下でないと使えないから、それとのバランスも考えて改正されたみたい。
良男 住宅取得資金の贈与の非課税の注意点は?
幸子 3月末までの契約だと非課税枠は最高1200万円なのが、4月以降の契約で10月以降に引き渡しを受ける場合は非課税枠が最高3000万円になるわ。10月以降の引き渡しの場合、原則として10%の税率が適用されるの。辻・本郷税理士法人の浅野恵理さんは「8%の時よりも負担が重くなるので、その分、非課税枠も引き上げる」と説明しているわ。ただ、いつまでも3000万円ではなくて、2020年3月末までの契約に限られているけれどね。
良男 教育資金の非課税制度は7月にも改正があるね。
幸子 教育費というと、普通は学校の入学金や学習塾の費用などを思い浮かべるけど、今は趣味の習い事の費用まで含まれているの。小さい子ならばピアノや習字といった習い事も教育の範囲に含めていいかもしれないけれど、大学を出て働いているような人の習い事まで非課税対象にするのは行き過ぎといえるわ。このため、7月からは23歳~29歳の人の趣味の習い事の費用などは非課税の対象外になるの。
良男 年央はほかには?
幸子 昨年の配偶者控除、配偶者特別控除の改正に伴って、6月分から住民税の天引き額が変わるの。昨年から年収が1220万円を超えると、配偶者控除が受けられなくなったわ。そのため昨年、所得税額が増えた人もいるけれど、「住民税も増える人がいる」と藤曲さんは話しているの。
恵 消費増税では税金面でも景気対策が打たれるようね。
幸子 やはり住宅が大きいわ。税率が上がる10月以降に住宅ローンを利用して契約・入居する場合は、住宅ローン控除の適用期間が現在の10年間から13年間に延長されるの。20年末までの入居と期間限定だけれど「この恩恵を受けるため、あえて10月以降に取得・入居する人も出てくるのでは」と浅野さんはみているわ。ほかに注意すべき点は、消費税が8%で済む経過措置を利用することね。例えば、結婚式や披露宴の費用は3月末までに契約すれば式自体が10月以降でも8%で済むわ。電車の定期券や映画の入場料金も9月末までに購入すれば8%よ。
■贈与税など富裕層に影響大
ランドマーク税理士法人 代表税理士 清田幸弘さん
2019年度の税制改正は消費増税対策として、予算面ではクレジットカードで商品を購入する際のポイント還元などの措置を講じましたが、税制面でも住宅ローン控除を拡充し、10月以降に購入する自動車に限って自動車税を最大年4500円減税し、燃費課税も1年限定ながら1%の減税に踏み切りました。
一方、父母、祖父母が子や孫に教育資金をまとめて贈与する場合でも贈与税がかからない制度の利用を厳しくしました。これまで子、孫にこの制度を使って贈与すると相続税の課税対象にならないので死亡直前の贈与も行われていましたが、4月以降は相続開始前3年以内に贈与した財産のうち学校などに通っていない23歳から29歳の子、孫が教育費として使った分以外は相続税の対象になります。富裕層には影響がありそうです。
(聞き手は後藤直久)
[日本経済新聞夕刊2019年1月9日付]
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