ジャニーズ事務所の関連会社が所有するグローブ座を選んだのは、旧態依然の競技大会から脱却し、お金を払って見に来てもらえるエンターテインメントを目指したためだ。「同じフェンシングでも試合場が遠くて空席の目立つ体育館で見るのと、非日常を味わえる劇場で見るのでは全く違う体験になる。グローブ座なら6千円でも高くないと思ってもらえる」。この「納得感」を出すため、会場を変えただけでなく、初めて陣頭指揮した17年大会に続いて男女6種目の決勝戦を最終日に集中開催した。

大型ビジョンでは時間や得点だけでなく心拍数も表示して、選手の心理状態を伝えた(2018年12月、東京都新宿区)

都内から観戦に訪れた恋水詩織さんは「選手との距離が近くて臨場感がすごい。演出も凝っていて、5500円が高いとは思わない」と満足した様子。

いつもと違う満員の会場に、選手たちの士気も上がった。男子サーブルで優勝した徳南堅太選手(デロイトトーマツコンサルティング)は「初めて生でフェンシングを見るお客さんも多かったと思うので、あえて派手にガッツポーズしたりトリッキーな動きをしたり、エンターテインメントの部分も意識した」。

東京五輪はほとんどの競技が満員になるだろう。ただ、普段は会場に選手仲間や関係者しかいないような競技が少なくない。五輪で人生初めて満員の会場に立つ選手もいるはずだ。「オーディエンスファースト(観客第一)はアスリートファーストでもある」と太田会長が訴える改革は「声援をプレッシャーに感じるのではなく、力にできる強い選手をつくること」でもある。

パラ競技は有料化の流れ

フェンシング協会のように、主催大会を収益を生み、ファンを増やすコンテンツとしてテコ入れする動きが広がっている。選手に比べて「プロ化」の歩みが遅い日本の競技団体にも、マネタイズの意識が芽生え始めている。

体操では試合後に白井健三さん(右から2人目)らトップ選手と握手できる特典も(2018年11月、群馬県高崎市)

日本体操協会は15年から、全日本選手権やNHK杯など主要4大会を最前列で観戦できる「プレミアム年間シート」を発売している。1枚4万~6万円と決して安くはないが、過去4年間、用意した50~60席分は全て売り切れる人気だ。

近年は内村航平選手(リンガーハット)や白井健三選手(日体大)らスターが次々と出現。「毎回見に来てくれるファンも多いので企画した」と担当者。日本代表選手のサイン色紙プレゼントのほか、会場でのラジオ解説、試合後の選手との握手会など多様な特典もファンをひきつける。

日本バドミントン協会は昨年3月、ゼビオアリーナ仙台で開催した実業団大会「トップ4トーナメント」で大胆な企画を打った。コートサイドに4人掛けのテーブルを設け、アルコールや食事を楽しみながら観戦するチケットを販売した(1テーブル6万~8万円)。

バドミントンでは、コートサイドで食事とお酒を楽しみながら観戦できる席を用意(2018年3月、仙台市)

企画を主導した元五輪代表の池田信太郎さんは「協会内では賛否両論あったが、新しいことをやるのだから批判もあって当然。今までの大会はバドミントンが好きな人にしか来てもらえなかった。興味のない人にも来てもらいたかった」と意義を強調する。

観戦無料が当たり前だったパラ競技では「観客の意識を変えたい」と有料興行への挑戦が始まっている。先頭を走るのは日本ブラインドサッカー協会だ。16年夏に初めて日本選手権のピッチサイドを有料にし、17年は記念グッズと飲食がつくプレミアム席を前売り5000円で売り出して完売。自由席も含めると700の有料席が売れた。

18年は国際親善試合でピッチ脇のフェンスを一部透明にし、足元の技術も見られる「砂かぶり席」を6000円で売り出した。日本車いすバスケットボール連盟も17年から国際大会で有料席を設けている。

国の補助金いつまでも続かず

五輪、パラとも20年東京大会を追い風にしたチャレンジといえる。ただ、競技団体の視線の先にあるのは「東京」後への危機感だ。

来年度の国のスポーツ予算は350億円で、強化費は100億円の大台に初めて乗った。競技団体が受け取る補助金やスポンサー収入は増え続けているが、補助金は東京大会後に減少に転じるのが確実だ。主要財源の会員登録費も人口減で伸びが見込めない。笹川スポーツ財団の吉田智彦主任研究員は「東京大会後を見据え、収益構造をどう変えていくか課題を突きつけられている」と指摘する。

ファンやスポンサーを増やす魅力的な大会づくりは、競技団体にとって自立運営への一歩といえる。フェンシングの全日本選手権は協賛が大幅に増え、演出に力を入れたり優勝賞金を出したりできた。好循環の先に競技のサステナビリティー(持続可能性)も育つ。

(山口大介)