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パラアスリート 夢を追う

「水中では腕も足もある」 障害超える天性のスイマー ブラジルのディアス選手

2019/1/25 日本経済新聞 夕刊

ディアスほど、魅力的な笑顔を見せるアスリートはなかなかいない。昨年11月、テレビ局などの招きで初めて来日した時も、行く先々でファンを増やした。

笑顔はプレッシャーを手なずける方法だという。「笑うと自分の抱えている問題がなぜか軽くなる。そして周りの人をハッピーにするために、笑っていようと思うんだ」

イベントで泳いだ後、参加者の拍手に笑顔で応えるディアス(東京都江東区)

処世術の一つでもあったのだろう。生まれた時、その姿を見た父親が病院で卒倒したほどの障害だ。子供のころ「腕なし」などといじめられた。「残念なことにそういうことを嫌というほど経験した」。相手との距離を縮めるために、笑顔をふりまく。そこにスポーツの力が加わった。「スポーツをやっていれば、その人は腕があろうとなかろうとアスリートなんだ」

4年前、ブラジルの地元に、障害児に水泳を教える財団を創ったのも、そんな思いが高じた結果だ。「僕のケースがそうだったように、スポーツは人生を変える。そういうチャンスをできるだけ多くの子供たちに与えたい」と説明する。

来日中、東京五輪・パラリンピック用に建設中の水泳会場を訪れた。「この目で見たかった。わくわくして夢が膨らんだ」。前回リオデジャネイロ大会では、金4つながら自己ベストを一つも更新できなかった。その後、ディアスの世界記録を破る選手も現れた。このためトレーナーなどサポートチームを一新。新たな体制で強化を進める。

キーワードはスピードアップとパワーアップだ。短い腕を闇雲に回すのではなく、バイオメカニクスによる分析で、最適の回転数を探る。これまでやっていなかった背筋と胸筋のトレーニングにも励む。「東京ではすべてで自己ベストを更新したい」

■「かわいそうだと思わないで」

上智大学であったイベントでは東京パラを迎えるにあたり、ディアスが障害者との付き合い方を説いた。「彼らをかわいそうだと思わないで。社会の差別は消えないが、そういう差別が自分たちの中にあってはいけない。はれものでも触るようなところが透けて見えるのは、なくしてほしい」

健常者に対するのと同様に普通に接することの大切さ。実はディアスにインタビューした際、記者は握手で左手を差し出した。ひじまでしかない右手では難しいだろうと思ったからだが、彼は少し困惑した表情だった。その後、ディアスが至る所で右手を差し出す姿に、非礼を気づかされる。

後日、そのことをわびると、彼はあの笑顔を見せて言った。

「ノープロブレム!」

=敬称略

(摂待卓)

[日本経済新聞夕刊2019年1月7日付と8日付を再構成]

ダニエル・ディアス選手は2月25日午前4時15分から、WOWOWの番組「パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM」に登場します。日本経済新聞社は2020年東京パラリンピックの成功に向けて、同番組と連携したイベントを開催しています。

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