イノシシも演劇も雅楽も 大学博物館でお得な宝巡り
大学が長年にわたって蓄積してきた貴重な文献・史料や芸術作品などの"お宝"を広く一般に公開している大学博物館。得意分野を生かした特色ある貴重なコレクションは予想外に見応えがある。しかも多くが入場無料。特色ある展示で知られる東西の大学博物館を巡ってみた。
動植物の温室、カフェも併設
2004年に開館した東京農業大学「食と農」の博物館(東京・世田谷)は、生活に身近な展示やイベントで人気を集めている。マダガスカルなどの貴重な動植物を育てる温室「バイオリウム」が売り物の一つ。おしゃれなカフェも併設し、家族連れやカップルで半日は楽しめそうだ。
学芸員の西嶋優氏は「食と農の現場を知ってもらうことが私たちの重要な使命。来館する子供たちには、他の生きものへの感謝や命の大切さを学んでほしい」と話す。現在開催中の企画展は、干支(えと)にちなんで「ブタになったイノシシたち」(3月10日まで)。日本やアジアでイノシシが人の手によってどのように家畜のブタに"進化"したかを写真、絵画、剥製などを通じて解き明かす。
教員養成に定評がある玉川大学(東京都町田市)の教育博物館で現在開催中の企画展は「明治の教育と博物学」(1月27日まで)。江戸時代の本草学(中国伝来の植物中心の薬物学)から、明治の学校制度での「博物学」「理科」教育への流れを当時の教材など豊富な資料で紹介する。
主幹学芸員の柿崎博孝教授によると「創立者が古本屋ごと買い取った資料が、今回の展示のベース」なのだとか。錦絵の流れを引く教材の挿絵は美術としても価値がありそうだ。同館は19世紀の英国人博物学者ジョン・グールドによる精緻な「鳥類図譜」全40巻も所蔵。天皇、皇后両陛下と秋篠宮ご夫妻も観覧された。19年秋にはその特別展を東京・池袋と博物館内で開催する予定だ。
1928年設立の早稲田大学坪内博士記念演劇博物館(東京・新宿)は東洋唯一の演劇専門博物館だ。企画展「現代日本演劇のダイナミズム」(1月20日まで)の会場をのぞくと、展示パネルにカラフルなゴムひもを張り巡らせることで現代演劇の担い手たちのつながりを表現するユニークな趣向に驚かされる。
館長を務める岡室美奈子教授は「一般の方々に現代演劇の見取り図をわかりやすく提供し、演劇文化の裾野を広げたい」と展示手法の意図を解説する。同館ではこうした空間デザイン的な手法による展示や最新デジタル技術を駆使して「博物館全体を楽しんでもらう」ことを目指す。無声映画の上映会や旬の演劇人を招いたイベントを開催するほか、岡室館長自身が大好きだというテレビドラマ関係の展示やイベントも好評だ。
即位礼控え、特別展を企画
神道学科が設置されている皇学館大学(三重県伊勢市)のキャンパス内にある佐川記念神道博物館。日本でも珍しい神道をテーマにした博物館だが、祭祀(さいし)を中心とした神道関係史料のほか、考古学史料や伊勢歌舞伎など珍しい郷土史料も展示されている。
今年は30年ぶりの天皇即位。学芸員の浦野綾子氏によると、5月31日から即位礼や大嘗祭(だいじょうさい)に関する貴重な史料群を中心とした大規模な特別展を開催する予定だ。伊勢神宮に近く、お伊勢参りと併せて訪れるのも楽しそうだ。
正月に耳にする雅楽などに使われる楽器のことが知りたければ大阪音楽大学音楽メディアセンター楽器資料館(大阪府豊中市)を訪れるといい。日本古来の伝統音楽・芸能関係の国内屈指のコレクションは見ごたえ十分。
学芸員の大梶晴彦氏は「楽器の進化は一方向ではない。時代背景や地域性、心や技の伝承など、それぞれの時刻・空間を生きた人間の英知には理由があり、決して古いものが劣っているわけではないということをお伝えしたい」と話す。月2回程度開催する学芸員による詳しい展示解説には、大阪近郊だけでなく全国から申し込みがあるそうだ。
学生や研究者でなくても、貴重な大学の知の集積に気軽に触れられる大学博物館。近隣や通勤経路などにある大学キャンパスをチェックして、ほかにもユニークな展示を探してみてはいかがだろうか。(ライター 大谷 新)
[日本経済新聞夕刊2019年1月5日付]
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