性差・世代を超える プリキュアが開く新しい社会像
ダイバーシティ進化論(水無田気流)
昨今、ポップカルチャーのキーワードとして「ダイバーシティ(人材の多様性)」は欠かせなくなってきた。ファッション業界では、多様な人種やサイズのモデルを起用。さらには既存の性別に固定されない「ノンバイナリー・ジェンダー(第三の性)」をテーマにしたコレクションも目立つ。「男性服/婦人服」の垣根を廃し、より自由に個性を輝かせることが眼目だ。
昨年は、女児に人気のアニメ「HUGっと!プリキュア」にもこの時代の機運を感じた。少女たちが正義のヒーロー(あえてヒロインとは言うまい)「プリキュア」に変身し、悪の組織と闘う物語だが、ついに男子のプリキュアが登場し話題となった。「若宮アンリ」という、フィギュアスケーターの少年である。
彼は普段から制服のネクタイを蝶(ちょう)結びにアレンジし、「女の子だってヒーローになれる」と銘打ったファッションショーの舞台には純白のドレスを着て参加。男らしくないと批判されれば、「僕は自分のしたい格好をする。自分の心に制約をかける。それこそ時間、人生の無駄」と言い放つなど、旧来のジェンダー規範への挑戦に満ちたキャラクターである。
一方、プリキュアたちの敵、クライアス社の方針は「時間を止め、人々の未来を奪う」こと。まるで短期的な成果のため持続可能性を犠牲にしてきた旧来の企業像を映すようだ。社員は戦闘の際、怪物を発注。成果を上げずに負けて帰社すればデスクがなくなるなど「ブラック企業のようだ」と言われてきた。
これに対しプリキュアは、未来から来た赤ん坊を守り育てるために闘う。なるほど、子供たちにとっての最大の敵は、成果第一で「働く大人」目線に偏った社会のあり方そのものだろう。ワークライフバランスの実現が困難な働き方は、少子化の一因でもある。
とはいえ社会を立て直す責務を子供たちだけに負わせるのはどうだろう……。と思いながら見ていたら、何とクライアス社の社員たち(団塊世代やバブル世代を暗喩)は、プリキュアとの交流を通じ明日への希望を取り戻し、次々と仲間になっていくではないか。
性差や世代を超え、さらには人工知能(AI)との協業や友情まで育む同作は、ダイバーシティ達成の視座に富む。これを見て育った子供たちが社会に出るときには、この夢がかなえられていてほしい。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。
[日本経済新聞朝刊2019年1月7日付]
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