夫の写真を褒めるのが面倒
作家、石田衣良さん
夫が撮った写真を「どうだどうだ」と見せたがります。さらに、いい評価をしないと機嫌が悪い。少しボケた写真も「いい写真ね」と褒めなければならず、最近は面倒になりました。どうやり過ごせばいいでしょうか。(神奈川県・女性・70代)
◇
これは確かに迷惑ですね。夫が趣味で撮った写真を何度も何度も見せてくる。たぶん写真が唯一の趣味なのでしょう。たいした出来でもないのに、褒めないとご機嫌ななめ。70代の男性は一度気分を損ねると、いつまでも怒りっぽくなるものです。これでは日常生活さえ平穏に送りにくくなることでしょう。いやあ、めんどくさい。
でも逆に考えてみてください。あなたが冬のコートを新調した、あるいは美容院で髪型を変えてきたとする。そのコートいいね、ヘアスタイル似合ってるよといった良好な反応の代わりに、あなたが写真を見せられたときと同じように、夫からはろくに見もせずに薄いリアクションが返ってくる。あなたはそのときどんなふうに感じるでしょうか。やはりがっかりしますよね。その理由はコート選びの失敗でも、おかしな髪型でもなく、もう夫が自分には興味をなくしてしまったせいなのです。
ここで問題になるのは、旦那の写真の芸術点でもあなたのコートや髪型でもなく、長年連れ添った相手にもう関心がひとかけらもなくなってしまったという点です。若い頃は相思相愛だったのに、今ではそこまで心が離れてしまった。残念!
もちろん夫婦なんて、70にもなれば同居人への関心なんてあるはずないよ。お互いの趣味や外見なんてガン無視でいいじゃないか、好きなように生きなはれという大人の意見もあるでしょう。でも人生100年という恐ろしい長寿時代が近づいています。そうなるとこの先20年以上も冷戦状態で夫婦生活を送らなければならない。だったらあなたのほうでも旦那の趣味への対応を、もう一度考え直してもいいかもしれません。
少し写真の勉強をして、つまらない写真には的確なアドバイスを、いい写真はベタ褒めという対応をすれば、旦那もいい気分で過ごせるし、あなたへの反応も今よりさらによくなるはずです。ぼくは思うのだけど、日本人は学校でも職場でも家庭でも、あまりに人を褒めなさすぎです。厳しい態度をとってぎすぎすするより、優しく褒めて前向きな空気をつくりましょう。
男は単純です。見え透いた褒め言葉ひとつで、もうひと踏ん張りしようと心を固める健気な生きものです。うまくおだてて旦那を乗せてくださいね。
[NIKKEIプラス1 2019年1月5日付]
NIKKEIプラス1の「なやみのとびら」は毎週木曜日に掲載します。これまでの記事は、こちらからご覧ください。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。