ミシュラン掲載京都ギョーザの名店が進出 東京・銀座
京都・祇園に美食ガイドとして知られるミシュランガイドの"ビブグルマン"に2017年版から3年連続で選ばれたギョーザ専門店がある。"ビブグルマン"とは、一つ星、三つ星といった星つき店以外で、5000円以下で楽しめる価格以上の満足感が得られる料理を出す店のこと。選ばれたのは「ぎょうざ歩兵(ほへい)」。舞妓(まいこ)さんや芸妓(げいこ)さんにも食べてもらえるようなギョーザをと、コンサルティング会社リンクアップ社長の今井雅敏さんが、有名料理店で腕を振るってきた料理人と共にグルメギョーザを開発。2011年にたったカウンター6席から始めた店だ。
「歩兵」というと、つい京都に本社を置く「餃子の王将」を意識した店名かと想像するが、「初心を忘れず一歩ずつ進んでいく」という意味を込めたのだそう。印象的で、ギョーザ好きなら一度聞けば忘れることがない。祇園の店は十数席の小さな店で、多いときは1日2500~3000個のギョーザを売るといい、最大4時間待ちになるほどの人気だ。18年12月には姉妹店が東京・銀座に登場。話題を呼んでいる。
「これもギョーザなのか」
銀座店の店長・山口貴一さんは、祇園で初めてそのギョーザを口にしたとき驚いたという。分厚くてもちもちとした皮が肉あんを包んでいるというのが、山口さんのギョーザのイメージだったからだ。「ぎょうざ歩兵」のギョーザの一番の特徴は、皮が極薄で直径約7センチと一般的なギョーザに比べるとかなり小ぶりであること。そこに皮を含めきっちり12グラムとなるよう、あんが詰まっている。
「このギョーザは、あんの包み方で8割味が決まるんです。銀座店開店に向け修業を始めた頃は、あんが少なすぎたり多すぎたりぶれていた。『焼いてやるから食べてみて』と祇園の店長が包んだギョーザを食べたら、1個の満足度が全然違った。少なすぎると食べた気がしないし、多すぎるとしんどく感じるんです」(山口さん)
提供するギョーザは2種類のみ。舞妓さんのように人と接する仕事をする人でも気にならないよう、ギョーザの定番具材ニンニクを入れない「生姜ぎょうざ」と、ニラ、ニンニクを入れた王道の「ぎょうざ」だ。
一皿に並ぶギョーザは8個。山口さんの話を聞きながらも、皿に載るギョーザのボリュームを見て最初は正直「物足りなくないかな」と思った。ところが「生姜ぎょうざ」を食べてみると意外や意外。小さいのに肉の味が濃くしっかり満足感があるのだ。あんはハクサイ、キャベツ、豚肉、豚の背脂にすりおろしたショウガを合わせたもの。
薄い皮はこんがり焼かれ、口に入れるとパリパリの皮がじゅんわりとした肉汁と合わさる。一方、ニンニク入りは野菜を多めに入れているためか、想像よりあっさり。ニンニクの味はしっかりするがくどさがない。食事代わりにするには物足りないだろうが、はしご酒や飲んだ後のシメにちょうどいい量と味のバランスだ。
実際、祇園も銀座も夕方からの営業で「ちょい飲み」客が主なターゲット(銀座店は土曜日に昼営業あり)。ビールやハイボールが人気の祇園と異なり、東京ではワインと一緒にギョーザを楽しむ人が目立つとか。
「ギョーザは祇園では、6割のお客様がニンニク入りを頼まれていましたが、東京はこれまでのところ6割がショウガ入りという印象」(山口さん)とこちらも東西で少々好みは分かれるらしい。
女性1人でも両方の味を頼んだり、おかわりを頼んだりする客も多く、「祇園で働いていたときには、一番多くて8皿召し上がった方がいらっしゃいました」(同)。8皿と聞くと「ええ!」と思うが、飲み会の後の勢いならペロリと何皿もいけてしまうかも。
ギョーザが焼けるのを待つ間のアテには、キュウリのゴマ油あえや肉味噌もやしなどを用意。メニュー名に思わず心ひかれるのが「鬼しじみのエスプレッソ」。しっかりだしを引き出したシジミのスープで、飲んべえは最後に「肝臓のために」と飲みたくなりそうだ。
実は、銀座店は「餃子歩兵」と"餃子"が漢字表記。祇園の「ぎょうざ歩兵」は別格の本店との位置づけで、これからは「餃子歩兵」ブランドで、フランチャイズも含めた全国展開を目指しているからだ。なお、フランチャイズ店でも、ギョーザをはじめとするすべてのメニューを各店で手作りするという。
さらに、今春にはパリに海外1号店の出店を予定している。
「中国で生まれ日本で独自に進化したラーメンは、今世界中で人気を呼んでいます。ギョーザもその故郷は中国ですが、焼きギョーザが日本で独特の形で発展してきました。ギョーザも世界に大きく羽ばたく土壌がある」(国内のチェーン展開を手がける祇園歩兵社長・稲吉史泰さん)
出店地は、オペラ座やルーヴル美術館に近いパリの中心地。ラーメンのように日本のギョーザが世界で大ブームとなるか。これからが楽しみだ。
(フリーライター メレンダ千春)
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