――多様な事業の指揮を執るために必要な資質は何でしょう。
「まず、自分がリーダーシップを発揮してやる部分と、思い切って人に任せるところを分ける整理能力です。ただし、任せきりにはしない。(細かく管理する)マイクロマネジメントにならない範囲で、アドバイスして、運用を任せることが大事です。最終的な責任は社長である私が取るという覚悟で任せています」
「それから当たり前ですが判断力、決断力ですね。難しい問題で判断に迷うことはありますが、限られた時間の中で決断しなければ、巨大な組織を引っ張っていけません。また、謙虚さも必要です。先述したジャングルガイドについて、ある米国人の方から、どんどんジャングルの先に入っていくのはいいが、振り向いたら誰もいなかったということになってはいけないと言われました。仲間の声を聞き、常に自分の針路を調整しながら進まないといけないと考えています」
縦割りの部門を超えた混成チームで成果
――就任1年目の16年3月期決算では資源価格の下落が響き、会社設立以来初の最終赤字に転落しました。17年3月期は3061億円の最終黒字とV字回復に導きましたが、どのようにリーダーシップを取ったのですか。
「三井物産の収益構造はエネルギーや金属などの資源ビジネスに偏っていました。(好況が持続する)スーパーサイクルで収益的に貢献しましたが、権益を高値づかみしてしまい、好況が終わったときに大きな減損が出ました。資源ビジネスは世界から必要とされる事業で、三井物産としても強い分野です。ビジネスの意義を再確認したうえで、投資規律を高めました」
「一方、非資源分野ではモビリティーやヘルスケア、食料に関する分野などを成長領域と決めて、徹底的に強化しています。これまでは成長分野でも、人材不足で案件をつくり出せない場合がありました。そこで縦割りの部門を超えて人を異動させ、いくつか混成チームをつくっています。タイの製糖工場のプロジェクトではプラント建設とエネルギーの両部門がチームをつくりました。製糖工場の設備更新に併せて、サトウキビの搾りかすを燃料に使う発電所を建設しました。部門の枠を超えて連携することで、メーカーにはできない商社ならではのビジネスができます」
1983年東大工卒、三井物産入社。プラント関連が長く、米国やインドネシア、中東などで豊富な海外経験を持つ。経営企画部長や機械・輸送システム本部長を経て2015年から現職。
(村松洋兵)