5Gがすべての基礎になる 2019年デジタル製品予測
2019年、デジタル関連製品ではどのようなものがはやるだろうか。また、これからどんな技術が伸びてくるだろうか。ジャーナリストの津田大介氏、AV(音響・映像)・デジタル機器に強い西田宗千佳氏、モバイル業界に詳しい佐野正弘氏といったMONO TRENDYの連載陣に加え、辛口評価記事で人気の戸田覚氏に予測してもらった。うち2氏が挙げたのが5G。あらゆるサービスが高速通信を前提にするようになり、今後重要になるのは間違いない技術だ。
津田氏:2019年はARがより身近に
2019年に注目している技術は「AR(拡張現実)」。スマートフォン(スマホ)などの画面にカメラで見た実際の映像とCGを組み合わせて表示する。「VR(仮想現実)」のような専用のデバイスは不要でスマホがあれば使えるため、利便性が増せばより身近になっていくだろう。これまでは一部の美術館や博物館などで先行しており、個人が利用している姿はあまり見かけなかったが、18年に登場したARアプリの「Google レンズ」[注1]は、思ったよりも実用的で使いやすかった。
[注1]カメラを向けたものが何だか調べてくれるアプリ。例えば花にカメラを向けるとその花の名前を教えてくれる。
19年は、Google レンズに追随するARアプリもどんどん登場するのではないかと期待している。個人利用が身近になれば、20年の東京五輪に向けて街中で利用できるサービスなども拡大していくと思われる。Google レンズは、当初はグーグルのGoogle Pixel 3でしか使えなかったが、その後、他のAndroidスマホでも利用できるようになっているので、機会があれば試してみるといいだろう。
もう一つ、19年はオーダーメード市場がどのように拡大していくかもウオッチしていきたい。18年に注目を集めたゾゾスーツのように、メーカーが作る既製品の仕様にユーザーが合わせるのではなく、個人に最適化した製品を作るオーダーメードサービスが、テクノロジーの進歩により洗練され、大きな流れになりつつある。
オーダーメードできるのは、体のサイズを測る衣服だけではない。18年には、個人の聴覚パターンに合わせて、最も聞こえやすくなるようにサウンドを自動で調整してくれるヘッドホン「nuraphone」が登場した。19年以降も、個人の身体的特徴だけでなく、五感や意識などにマッチしたサービスや製品、体験が増えていくだろう。一つ例を挙げると「睡眠」。「睡眠負債」が17年の新語・流行語大賞でトップ10に入るなど、日本において睡眠は注目度の高いテーマだ。単なる睡眠時間だけでなく、個人に合わせた睡眠の質や快適さにフォーカスしたサービスは、まだまだ出てくる予感がする。
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。「ポリタス」編集長。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。NIKKEI STYLEに「津田大介のMONOサーチ」を連載中。
佐野氏:重要な5G、政治の影響に懸念
2019年、注目されるのは次世代モバイル通信の「5G」の動向だ。日本では東京五輪が開催される20年に商用サービスを提供する予定だが、海外ではそれよりも前倒しで5Gのサービスを実施する国が増えている。そのため日本でも、19年のラグビーW杯に合わせる形で5Gの試験サービスが提供されるとみられている。
5Gは単にスマホの通信速度を高速にするだけでなく、自動運転やスマートシティーなど、新しい社会基盤を構築する上で重要なインフラとして活用されることが想定されている。それだけに19年は5Gを巡る企業の取り組みが急加速し、面白い動きを見ることができるのではないだろうか。
だが5Gはそれだけ国家にとっても重要な存在となり得るだけに、最近の米中摩擦を巡る中国メーカーの動向が象徴しているように、政治による影響を大きく受ける可能性が高まっているのが気になる。政治の駆け引きによる影響が技術の進化に影を落とすことにならないか、この点が19年は非常に気がかりだというのが本音でもある。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。NIKKEI STYLEに「佐野正弘のモバイル最前線」を連載中。
西田氏:20年への序章、すべての基盤は5G
2019年は20年への助走である……というと「なにを当たり前のことを」と言われそうだ。だが、事実そうなのだ。19年に起こることは19年に起きたヒット、というより、20年に予定されている変化を受けての先取り型の変化、といった方がいい。
例えば5G。日本でサービスが始まるのは20年だが、海外では商用サービスが始まっている。正直、国によって状況が異なるので話は単純ではないが、「5Gで海外がなにをウリにするのか」「端末の形や提供形態がどうなるか」は見ておいて損はない。なにより、以下で取り上げる技術はどれも高速回線がどこでも使えることを前提としている。だから、5Gは基盤であり、すべての変化の前提である。
AVについては、「解像度の先」がようやく見えてくるだろう。8Kまでいけば、当面解像度は十分だ。そのコンテンツをどう作るのかとか、いろいろなデバイスで「解像度よりも見ている人にとっての美しさや没入感」で評価するように変化してくる。HDR(ハイダイナミックレンジ)はそのひとつであるし、4K映像の中でも、8Kで制作するかどうかで画質が違うといったことも増える。音も同様で、ハイレゾか否かが重要な時代は終わり、オブジェクトオーディオ[注2]などの「音を体感する空間を構成する技術」が注目される。そして、それらは20年の東京五輪に向けた準備でもある。
[注2]米ドルビー・ラボラトリーズのドルビーアトモスなどで使われているオーディオ技術。例えば車が走る音で、音の情報に車の位置の情報が含まれており、再生側はそれに合わせて再生できる。音の移動効果がより明確になる。
VRやARも同様だ。19年の早いうちに、いくつか大きな製品が出てくる。ひとつはフェイスブックの「Oculus Quest」など、外部にセンサーを置かずにヘッドセットだけで利用できるスタンドアローンVR機器であり、もうひとつはマイクロソフトの「第2世代HoloLens」などのAR機器だ。アップルなどスマホ系メーカーも、20年に向けて同様の機器を開発しているのは間違いない。筆者も複数のソースより開発中であるという情報を得ている。19年に完成度の高い製品が生まれ、20年に向け、多数の製品が覇を競い合う状況になる。
フリージャーナリスト。1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。NIKKEI STYLEに「西田宗千佳のデジタル未来図」を連載中。
戸田氏:Wi-Fiの主役はメッシュネットワークに
2019年に流行するIT系のトレンドとして2つのトピックスを取り上げたい。複数のWi-Fiルーターが連係して動作する「メッシュネットワーク」は、今後のWi-Fiの主役になっていくのが間違いない技術だ。これまでのWi-Fi親機と中継機の組み合わせよりも効率がよくなり、家の隅でも高速な通信が可能になる。高品質な映像を見る手段が、放送から通信へと移りつつあるなか、さまざまな部屋のテレビで4Kビデオのストリーミングを見るようのに、従来の親機では物足りなく感じる人が多いはず。メッシュネットワーク対応のWi-Fiルーターのセットは徐々に値下がりし、シェアを伸ばしてくるはずだ。
もうひとつの注目が、充電や給電の規格である「PowerDelivery」だ。すでに対応するスマホやパソコンが登場しており、同じ規格で充電・給電できる。これまでのように、デバイスごとに充電器を持ち歩く必要がなくなり、モバイルバッテリーの用途も広がる。Ankerからは、次世代の半導体素材「窒化ガリウム」を採用した小型のACアダプターが発売されることも決まっており、数年後にはACアダプターが付属しないパソコンも登場するだろう。
どちらも派手ではないが、生活を着実に便利にしてくれる点では重要な技術だ。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
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