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「生きる」ブロードウェイへ期待 演劇・舞踊2018

2018/12/28

2018年の演劇・舞踊の秀作は何か。今年の舞台の成果を評論家4氏と編集委員が振り返る。

■瀬川昌久 ミュージカル 大胆な構成、米進出期待

(1)「生きる」
(10月、赤坂ACTシアター)
(2)「メリー・ポピンズ」
(3~5月、東急シアターオーブ)
(3)宝塚歌劇団月組「カンパニー」
(3~5月、東京宝塚劇場)

海外作品や横文字主題作品が多い中で、(1)の黒澤明名作映画のミュージカル化(脚本高橋知伽江、演出宮本亜門)は傑出した問題作だった。主役を市村正親と鹿賀丈史のダブルで演じ、音楽をアメリカ人が手掛けるという大胆な構成がブロードウェイ進出の念願を果たせるか期待したい。

(2)はディズニーのヒット作品の日本版初演で、メリーを迎える家族や友人との多彩な交流が芸達者に画(えが)かれ、卓越したドラマとなった。

(3)は宝塚には珍しい現代日本のサラリーマンの生きようを画いた小説(原作伊吹有喜)の舞台化で、会社のコマーシャルソングや協賛バレエの上演などをからませて宝塚の強味を生かした演出(石田昌也)が成功した。

■九鬼葉子 現代演劇(関西) 群像劇に日本の現状

(1)空晴+南河内万歳一座☆オールスターズ「隠れ家」
(12月、一心寺シアター倶楽)
(2)空の驛舎「かえりみちの木」
(3月、アイホール)
(3)ヨーロッパ企画「サマータイムマシン・ブルース」「サマータイムマシン・ワンスモア」
(8月、京都府立文化芸術会館)

(1)は南河内万歳一座の内藤裕敬の新作を、空晴との合同公演で披露。大阪の人気2劇団が共演する、痛快な群集劇。未来を模索する若者の、青春の焦燥を描く幻想的な劇に、日本の現状を重ねた。為政者により劇的に変化する時代。時流に流されず、一人一人が未来への道筋を検証する必要性を喚起。

(2)は流転する現代社会の生きにくさの中、何とか希望を見出し、生き抜こうとする庶民の姿を描いた、真摯な会話劇。作者・中村ケンシの渾身(こんしん)の台詞(せりふ)を俳優が丹念に描写。

(3)は人気劇団の好評作と続編の新作の連続上演。滑稽でスリリングな展開。知的な仕掛け。高水準の演技。現代エンターテイメントの代表作。

■現代演劇 終局切ないアート作

(1)KERA・MAP「修道女たち」
(10~12月、本多劇場など)
(2)劇団チョコレートケーキ「遺産」
(11月、すみだパークスタジオ倉)
(3)パルコ・プロデュース「チルドレン」
(9~10月、世田谷パブリックシアターなど)

ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の(1)は中世の魔女狩りのいわば「だまし絵」だった。異端排斥の話が「銀河鉄道の夜」のような切ない終局へ至る。細部の描写が緻密、現代アート作品でもあった。

(2)は古川健の台本、日澤雄介の演出で戦争中、旧満州(中国東北部)731部隊の細菌兵器開発に迫るドキュメント・ドラマ。科学者の陶酔感と人体実験の非人間性を対照する演出が光った。

英国演劇の旗手ルーシー・カークウッドの注目作を栗山民也演出で翻訳上演した(3)は、原発事故のあと科学者が次世代に何を託せるかを問うた問題作で、日本でこそ上演されるべき舞台であった。(編集委員 内田洋一)

■上村以和於 歌舞伎 菊・吉、完熟の芸

(1)当代「菊・吉」の完熟の芸
(尾上菊五郎・中村吉右衛門共演の「十六夜清心」、11月、歌舞伎座ほか)
(2)坂東玉三郎「助六」の曽我満江
(10月、同)
(3)坂東楽善「名高大岡越前裁」の水戸綱條
(11月、国立劇場)

(1)当代の菊五郎と吉右衛門は昭和歌舞伎の実りを最も正統的に受け継ぎ、平成歌舞伎として完全熟成させ、当代の歌舞伎の頂点を示した。前世紀末以降20年余に及ぶ熟成期のどの時点を全盛と見るかは様々な見解があろうが、菊五郎の弁天小僧(5月、歌舞伎座)、吉右衛門の河内山(9月、同)ともに熟柿のような深い味わいだった。

(2)「助六」の揚巻は玉三郎一代としても屈指の当たり役だが、今回は年来の名コンビだった仁左衛門の助六に敢(あ)えて母満江に回り、若い七之助に揚巻をさながら芸譲りをするかのような舞台ぶりは見事だった。

(3)彦三郎の名を譲り楽善を名乗ってからの澄み切った芸境は他に類を見ない。まさに古武士の気骨を見る概があった。

■長野由紀 舞踏 時制操る巨匠の手腕

(1)ハンブルク・バレエ団「椿姫」「ジョン・ノイマイヤーの世界」「ニジンスキー」
(2月、東京文化会館)
(2)森山未来、ヨン・フィリップ・ファウストロム、及川潤耶「SONAR」
(9月、横浜赤レンガ倉庫)
(3)マリインスキー・バレエ「ドン・キホーテ」「マリインスキーのすべて(ガラ)」「白鳥の湖」
(11月、東京文化会館)

(1)は、劇中劇や回想などを用い、時制を自在に操る巨匠ジョン・ノイマイヤーの手腕が圧巻。全て再演なのに、新たな心理の襞(ひだ)に分け入るような発見がある。

クジラの発する音波から着想したという(2)は、舞踊の音楽や、鑑賞の概念が変わる作品。座席のない空間で、出演者の動きにつれて観客が流動し渦を巻く。3年に1度のDance Dance Dance @ YOKOHAMA中の公演、今回は好企画が揃(そろ)ったがその白眉。

(3)は、世界最高峰の古典バレエ団がポピュラーな名作の定番的な演出を「今の眼」でふるいにかけ、じつに清新で洗練された印象。積極的に登用された若手の中でも、ガラ「海賊」他の永久メイの器の大きさが光った。

[日本経済新聞夕刊2018年12月26日付]

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