筧家ではファイナンシャルプランナー(FP)の幸子が仕事で買いこんだ本をダイニングテーブルに積み上げ、読みふけっています。背表紙のタイトルにはいずれも「家族信託」の4文字。良男と満はミカンを食べながらテレビを見ています。

筧良男 ママ、ずいぶん精が出るねえ。家族信託ってもうかるの?
筧幸子 信託というと投資信託のイメージが強いけど、家族信託は金融商品ではないの。簡単にいえば、財産を信頼できる家族に託して自分の代わりに管理してもらう契約のことよ。
筧満 僕がママの財布を預かって買い物をするイメージ?
幸子 そういうことを、家族の間で正式な契約書を交わしてもっと大がかりにできるようにするのよ。定期預金を引き出したり、家を売ったり……。元気なうちにしておく認知症対策として注目されているの。FPへの相談も増えているから、ママも勉強しておかないと。
良男 家族の間で契約書なんて、なんだか水くさいな。
幸子 そう言っていられない現実があるのよ。認知症になると判断能力を失ったとみなされて、金融機関で預貯金を引き出したり、自宅を売却したりできなくなるの。暗証番号を知っている家族がATMから引き出すのは本来はしてはいけないこと。窓口での対面取引は原則として応じてもらえないわ。
満 どうしてもお金が必要になったらどうするの?
幸子 家族などが家庭裁判所に申し立てて、本人に代わって財産を管理したり、老人ホームの手続きをしたりする「成年後見人」のお世話になるの。2017年の申立件数は2万7798件で、前の年に比べて3.6%増えたわ。申し立ての動機はやはり「預貯金などの管理・解約」が最多だったの。
良男 家族が成年後見人になれば一件落着だね。
幸子 それならいいんだけど……。実は成年後見制度は家族にとって不自由な面があるの。後見人を選ぶのは家裁で、家族のだれかを候補者として申請しても、家裁の判断で弁護士、司法書士など専門家になることが多いわ。それでも申し立ての取り下げはできないし、専門家への報酬も月数万円かかるの。
満 後戻りできない制度なんだね。